大人になれない大人たちの物語

『大人になれない』 まさきとしか著 幻冬社文庫

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あらすじ

サマーキャンプから帰ってくると、家の中は空っぽだった。たった一枚残されたメモには、親戚の家で暮らすように書いてある。小学五年生の森見純矢は、母に捨てられ、母の親戚である歌子の家で世話になることに。その家にはデブ女や無職の中年、六十七歳の引きこもり、毒親の老婆など、純矢が思うところの「価値のない人間」たちばかり。ある日純矢は、歌子が双子の姉を殺したと聞き、探り始めたのだが…。

どんな状況?そして親戚の歌子と居候たち

純矢は、母親と二人でギリギリの生活を送っていました。そんな母親が、サマーキャンプに行って来いとしつこく純矢に勧めてきて変だなとは思っていたのですが、どうやら母親は家を出て行ったようです。書き置きひとつを残して。アパートは取り壊しが決まっていたため、仕方なく親戚であるという歌子のもとを訪ねる純矢でしたが、彼の目の前に現れたのは大きな体に個性的な身なりをした女性でした。

ピタピタの黒いTシャツからは大福のような腹がはみ出し、黒いミニスカートからは迫力ある足が突き出しています。このデブ…、いえ太った女性が歌子・三十八歳。マッサージの仕事をしていて、この家の稼ぎ頭です。歌子を筆頭に魔女のような身なりをした歌子の母親・政江、失業中の四十一歳・亀山、引きこもりの六十七歳、江口の計四人がこの家には住んでいます。歌子母娘と二人の無職居候がいるというわけです。そこに純矢が加わります。

純矢はこんな少年

純矢は金銭的にも厳しい環境で育ったせいか、物事を斜めから見るところがあります。加えて、出来事や物を全てお金に換算してみる、ということをしています。飲むヨーグルトを一杯飲ませてもらったら100円の儲け。歌子の家で世話になれば、家賃を光熱費が浮いて40000円の儲け、という風に架空貯金をつけているのです。金額の高いものほど価値がある、とある意味素直で子供らしくもあります。

しかし純矢は、夢見がちで「いつかきっと」と思いながら自己啓発セミナーにお金をつぎ込んだりしているうちに一文無しになってしまった、気がいいだけが取り柄の亀山や、活躍していた会社を定年退職した途端、必要とされなくなった自分に落ち込み引きこもりとなってしまった江口らと接しているうちに、少しずつ考えが変わってきます。

大人ってどんなもの?

大人ってしっかりしているもの。大人は子供を養うももの。そんな概念が覆されるような、ダメダメな大人たち。そんな大人と自分がどう違うというのか。純矢は、時にはだらしない大人にアドバイスをしてあげたり、逆にそんな大人たちに意外なところで助けてもらったりするうちに少しずつ気持ちに変化が訪れます。そして、この家のボスである歌子はメンバーの中で最も自立した普通の大人に近い人物のように見えるのですが、実は彼女自身も胸に抱え続けているものがあるのです。それは毒親とも言える、政江の発言「歌子が、双子の姉である花子を殺した」という発言の裏に隠されています。

ダメダメ人間たちがなんとか現状を見つめ、立て直して行くヒューマンドラマかと思いつつ、歌子が人を殺したのかというミステリー要素が入ってきます。謎と言えば、歌子の生活ぶりや過去なども謎に満ちていて、ちらりと見せるその一部分に驚き、もっと知りたくなってしまいます。すごいデブなのにある一部の人間からメチャモテたりしてるんです。何故なんだ。気になります。

まとめ

大人になれない人って、どんな人なのでしょうか。それは、胸の内にあるものを大事に抱えすぎている人のことなのかもしれません。周辺の環境や人たちは、時とともに次第に変化していきます。自分自身もそれに合わせて考え方や対応を変えていくことが大人には求められるのです。しかし周囲の変化に気づかない、また、自分を変化させることを拒否してしまうのが大人になれない人なのでしょう。そんな彼らが変化していく様子に思わず涙が溢れてしまう、感動のミステリーです。

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