「個性」を科学すると生きやすい社会がやってくる

『ハーバードの個性学入門 平均思考は捨てなさい』

トッド・ローズ 著  小坂恵理 訳

ハヤカワノンフィクション文庫

概要

「平均」の思考が私たちの行動や将来を著しく狭めている。ハーバード教育大学院の研究者である著者が、「平均」という概念が生まれた経緯から、それが現代社会に及ぼす影響を詳しく解説。全体から生まれた「平均」という思考に対し、個を重視する「個性学」について、神経科学、心理学、教育学をもとに提唱する。「平均」的価値観に疲弊し、限界を迎えている現代社会へ一石を投じる一冊。

「平均」思考が生まれた経緯

イギリスで産業革命が起こり、人類はそれまでより多くの労働力を手に入れました。これまでにない生産性を得た人類は、同時に膨大なデータを手に入れることになります。大量に生産する工場では、効率良く成果を出すために、決められた動きをすることを求められました。

今までなかった情報量が一気に訪れた世界で重宝されたのが「平均」という思考です。多くの情報があるのであれば、それを計算してならした値が最適値なのだ、という考え方です。世の中がバラバラでありすぎるため、拠りどころとなる情報が欲しい、という人間の心理はよくわかります。例えば育児においては「一歳になれば赤ん坊は歩くものだ」といった考えがあるように。

成長は「平均」で測れるもの?

ところが、子どもの成長にはバラつきがあり、一歳半まで歩かなかったがその後走るようになったとか、二歳まで単語を発しなかったが突然いろいろと喋るようになったなど、いわゆる「平均的な子どもの成長」と比べると、誰もが「平均値」どおりでもないことがわかります。親としてはどっしりと構えていれば良いのかもしれませんが、「普通この頃だとこうでしょ」と言われると不安になるものなのです。

「平均」を優先させることの弊害

こうした平均値の時代の弊害は教育にも表れています。教育の内容はこれまでの平均から最適な内容を検討し、生徒に学ばせています。ところが国語が得意で数学が苦手、勉強は嫌いだが運動は得意、運動も勉強も苦手だが、人をまとめる力が抜群である、など学生の能力は多様です。勉強の理解度にしても個人差があるため、テストなどのほんの一部の要素で学生の能力を測ることは、彼らの未来への道を狭めていることにもつながります。

なぜ「個性」重視が大切か

著者は自身の経験を踏まえて、「個性」を大切にするべきであると主張します。著者は高校で落ちこぼれた後、なんとか大学に入ります。教務課で勧められた授業の取り方に疑問を覚え、自分に合ったやり方で授業を取り、講義を受けていった結果、なんとストレートA(全優)という成績を収めることができたのです。それは、著者が興味のない講義は聞いていられないので内容が頭に入らない、アイデアを出し合うディスカッションは興味があるし得意、という自分の「個性」を理解し、それに合ったやり方を選んだからです。

「個性」を活かして成果を上げている企業

また、一般企業においても個性を重視した結果、業績を上げている例が挙げられています。例えば、アメリカのトマトを加工する会社、モーニングスター・カンパニーには管理職が一人もいません。肩書きも階層も存在しません。皆がフラットな状態であり、誰にでも等しく責任と新たな提案を行うチャンスがあります。職場の改善や、新規の事業などのアイデアがあるときには、提案書を作成し、皆の合意が得られれば実行となります。そこに出身大学や、成績の比較などは一切ありません。

今なお成長を続けるコストコも、採用の基準はこれまでの経歴とは関係ないのだと言います。同業他社のウォルマートが離職率40%であることに比べ、コストコのそれは17%だとか。社員の満足度が高いのは給料や福利厚生の充実度ももちろんですが、本人が希望するままに教育を受け、そして関連のない部署でも異動が可能である、というその仕組みにあります。働き始めてから、自分に向いている能力に気づいたときに、それを活かせる場所で働くことが可能だということです。その効果は、会社が利益を上げ続けていることからもわかります。

まとめ

人間は一人一人違う。このような当たり前の事がわかっていながら、多くの人を動かすのに都合が良い「平均」的な思考を使い続けてきた企業や学校。それは多くの人たちが、自分に合わない形を押し付けられ、自分の考えや行動を変えてそれに合わせてきたという事でもあります。一人一人が異なる性質を持つことを理解し、その性質や能力を最大限に活かせる社会を目指していくべきではないでしょうか。

会社や学校といった場は一つの決まったやり方だけではなく多くのやり方を個人に提案すべきであり、個人も一つだけではなく、多くのやり方を調べ、検討していく。多くの人が進んでいく道は一つではなく、人の数だけ道があるのだということを本書は教えてくれるのです。

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