鉄壁のアリバイを崩します

『アリバイ崩し承ります』 大山誠一郎 著 実業之日本社文庫

あらすじ

鯉川商店街にある美谷時計店。時計の電池を交換してもらおうと、店を訪れた僕は、ふと壁の貼り紙が目に止まった。そこには、『アリバイ崩し承ります』『アリバイ探し承ります』との文字が。折しも犯人のアリバイ崩しに難儀していた新人刑事の僕は、店主にアリバイ崩しを依頼するのだが。ウサギを思わせるような二十代半ばの女性店主、美谷時乃が、鉄壁と思わせるアリバイを崩していくミステリー。

なぜ『アリバイ崩し』をするのか?

美谷時計店の美谷時乃は、祖父の跡を継いで時計店を営んでいます。時計の修理、販売のほか、なんと『アリバイ崩し』『アリバイ探し』をおこなっているのです。亡き祖父の、『アリバイには必ず時間がついて回る。時間のプロがアリバイの謎を解くことは、理にかなっている』という考えのもと、アリバイに関する仕事も請け負っているのです。ちなみに報酬は1件5千円。や、安い。

殺人事件の容疑者には鉄壁のアリバイが

住宅街の一軒家で浜沢杏子という一人の女性が殺害されました。発見者は妹の浜沢杏奈。妹の杏奈が言うには、杏子の元夫、菊谷吾郎が犯人に違いない、とのこと。ギャンブルにはまっていた吾郎は、ストーカーのように杏子につきまとい、職場にまで訪れ、金の無心をしていたと言うのです。しかし、杏子の死亡時刻前後、吾郎は友人たちと居酒屋で酒を飲んでいた、という鉄壁のアリバイがありました。

新人刑事がいくら考えても容疑者のアリバイは崩せず

刑事となってはじめての事件。そして、動機の上でも、言動をとっても限りなくクロに近いと思われる菊谷ですが、数人の友人が犯行時刻のアリバイを立証しているため、逮捕には至りません。菊谷が場の席を外した8分間の間に犯罪が可能であったのかを色々と検証してみるのですが、どれもかえって菊谷の犯行が不可能であったことを証明することに。そこで、この時計店の店主にアリバイ崩しを依頼するのですが。

話を聞いただけでアリバイ崩し成立!?

状況を聞いていた時乃は、

「時を戻すことができました。ー菊谷吾郎さんのアリバイは、崩れました」

なんと、話を聞いただけでアリバイの謎が解けたと言うのです。若く可愛らしい女性の安楽椅子探偵ですね。その謎のヒントは、被害者の胃の中の内容物です。食べたもの、時間。それらが死体発見時に警察にどのように判断されるか、そこをよく理解したうえで計画された犯行でした。

こうして新人刑事が、どうしても解けない事件の、犯人のアリバイについて時乃に相談していきます。アリバイ崩しに特化しているところが珍しいですし、おもしろくもあります。

アリバイ崩しの様々な依頼内容

そのアリバイも一筋縄ではいかないものばかり。犯行時刻に容疑者が凶器を手にすることは不可能だった謎、自供し、死んでしまった犯人の犯行が不可能である謎、はたまた刑事の初恋の人に似た容疑者の女性の無実を証明するためにアリバイを探してほしい…などなど、アリバイが必要となる設定だけでもバリエーション豊かで飽きさせません。

アリバイ崩しの名人、時乃とはどんな女性?

時間に関わるプロだけあって、時乃はほんの些細な狂いも見逃しません。錯覚や偶然をうまく利用したその手口を、ものの見事に解き明かして見せます。そんな鋭い頭脳を持つ彼女が、小学生の頃に祖父から出されたアリバイの謎に取り組む話もあり、その二人のやりとりにほっこりします。祖父のアリバイに対する思い入れや人柄が温かな目線で描かれ、この祖父に育てられたから、今の時乃があるのだなあと感じるのです。

まとめ

緻密に考えられたアリバイ。それを崩していく明晰な頭脳とウサギを思わせる可愛らしい見た目とのギャップが魅力の安楽椅子探偵、美谷時乃のミステリー。アリバイは複雑になるほど、説明も多くなり読んでいる方もダルくなりがちですが、そういったこともなく、スパンスパンと切れ味良く進んでいく短編集でもあります。可憐な『アリバイ崩しのプロ』の活躍に思わず「お見事!」と言いたくなる物語です。

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