人が嫌がるオシゴト。そこから見えてくるものとは?

はじめに

世の中には様々な仕事があります。体がきつい、危険が伴う、精神的に疲弊する。自分だったらちょっと遠慮したいなあというような、そんなお仕事ももちろんあります。そうした仕事はどのような経緯で発生し、担当する人間はどのような思いでその仕事をし、達成後には何が見えるのでしょうか。「人が嫌がるオシゴト」に取り組む人々の姿を描いた物語を集めました。

亡くなった賃借人の人生を炙り出す

『瑕疵借り』  松岡 圭祐 (著)  講談社文庫

アパートやマンションなどの賃貸物件において、その賃借人が亡くなったり失踪したりした場合、住居は「瑕疵物件」となります。貸主としてはこうした事実を報告する義務がありますが、明らかにしたらしたで入居希望者がなかなか現れないという状況に陥りがちです。そこで、「瑕疵借り」と呼ばれる人間が、このような瑕疵物件の部屋に、賃借契約を結び一定期間住みます。「瑕疵」を洗い流そうという訳です。

この「瑕疵借り」をしている藤崎は、亡くなった全住民の死因や、生前のトラブルなどを調査していきます。世の中に溢れている賃貸物件ですが、住む人間一人一人も多くの人と関わりながら生きているのだということがよくわかります。事故死、病死など、不審な点がないように見られる死でもその裏には思いもかけないトラブルが潜んでいたり、やるせない事情が絡んでいたりするのです。厄介ごとや心配事を抱えたまま亡くなった住民たちの真実を見つけ出し、その魂をなだめてやる。瑕疵借りにはそういった側面があるのかもしれませんね。

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始末をつけるのは借金と叶わぬ思い

『始末屋』   宮本 紀子 (著)  光文社文庫

江戸、吉原で客の借金を取り立てるのが「始末屋」。ここで働く直次郎は、花魁・真鶴から依頼を受け、彼女の妹分である花菊の首を絞めて逃げた男を探し出し、金を取り立ててほしいのだと言います。逃げた男の正体とは。

華やかな世界の裏で、多くの借金を抱え、好きになった男性と一緒になることも容易に叶わぬ運命に、苦しみと絶望を抱える吉原の女達。そんな女達を相手に良い思いをして遊び、お代が払えなくなった客たちを追い詰め、金を取り立てるのが「始末屋」の仕事です。客がどんな状況であろうと冷酷に取り立てをしていた直次郎ですが、真鶴の依頼を引き受けてから、吉原で亡くした妹の姿が心に浮かび、少しずつ人の気持ちを考えるようになっていきます。人との距離が変わり始めた直次郎が見つけた、男の正体と男女の真実とは。

金の絡む世界で、男のために傷つき、時には命を落とす遊女たち。直次郎は、亡き妹への思いや彼女たちの叶わなかった思いまでも始末してくれるのかもしれません。

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幸せはすぐに見えにくくなるから

『店長がいっぱい』  山本 幸久 (著) 光文社文庫

全国に127店舗を展開する「他人丼」のチェーン店、友々屋。左遷、転職、離婚した主婦、家出青年など、いろんな店長たちが各店舗で奮闘しています。休めない、従業員が暴走するなど毎日どこかでトラブルが発生中。それでも店長たちは、他人丼を食べる誰かのために、店を開けているのです。

店舗は増えても従業員はギリギリまで増やさず。キツイ環境にバイトはやめていく。代わりの人員が入るまではもちろん店長が出勤を続けるけれど、売り上げが出ない店舗には厳しい本部。フランチャイズ事業部の敏腕霧賀が細かに店長たちにヒアリングを行い、打開策を出そうとするのですが。

絵に描いたようなブラックぶりです。店長たちがそれぞれに事情を抱え、それでも誠実に働いているところが泣けてきます。彼らは辛い思いをしながらも「他人丼」の向こうに見える、お客さんの笑顔が見たいから今日も店に立つ。でも、日々の仕事が忙しすぎて忘れてしまいがち。それは経営する会長も同じこと。時には立ち止まって、自分の足元をじっと見てみれば、案外幸せの元は転がっているもの。店長たちは限界まで働き、働く理由を見失いそうになりながらも、また見つけ出して明日への一歩を踏み出していくのです。

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無茶苦茶ぶりが痛快なアクション小説

『バッドカンパニー』  深町秋生 (著)  集英社文庫

元警官や元自衛官などの屈強な男たちが働く『NAS』は、金さえ積まれればどんな仕事でも引き受ける法律やコンプライアンス度外視の人材派遣会社です。ヤクザの用心棒、国際テロリストの捕獲、裏カジノへの潜入。裏社会で暗躍する者達を相手に、やりたい放題の大暴れ。

「ヤバい」空気を身にまとった、女社長・野宮が受けてくる仕事は、命がいくつあっても足りないような危険かつ法律スレスレのものばかり。野宮に弱みを握られている元自衛官の有道は、渋々と依頼を引き受け、こなしていくのですが。

とにかく派手でスリリングなアクションに注目。屈強でクレバーな男達の戦いや駆け引きは手に汗握り、引き込まれます。事情があって仕方なく仕事をこなしている有道ですが、依頼人のために何とかしてやりたいと思う根の優しさも持っているのです。冷徹な女社長・野宮と、屈強だが根は優しい男・有道の対比も物語にリズムを与え、メリハリのある作りとなっています。アクション映画を見た後のような爽快な読後感のある短編集です。

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まとめ

ハードな仕事の舞台裏で、彼らはお客さんや、関わる人間を通して、自分自身の内側にあるものを見つめているのではないでしょうか。お客さんの幸せは自分の幸せにつながっている。今の仕事にそうした「気づき」があるからこそ、続けていけるのかもしれませんね。

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