戦わなかった者の戦いは続く

『笹まくら』  丸谷才一 著   新潮文庫

あらすじ

大学の庶務課の課長補佐として働く浜田庄吉は、ある日一通のハガキを受け取った。それは、浜田が戦争中に徴兵を忌避し、全国を旅していた頃に出会い、ある期間を共に過ごした女性の訃報を知らせるものだった。大学の学内政治に巻き込まれる中、戦争中の逃避の旅の記憶と現在を行き来する浜田。戦争忌避者としての緊張感あふれる心境を、追い詰められている現在の状況に投影し、戦争と戦後の意味を問う。

過去を思い出すきっかけ

浜田庄吉は大学の庶務課の課長補佐として働いており、大学の中では中途採用者として如才なく振舞っています。ある日、浜田のもとに一通のハガキが届きました。それは、かつて共に過ごしたことのあった女性、阿貴子の訃報でした。

浜田の過去

浜田庄吉は、医者の息子として生まれました。二十年前、「杉浦健次」と名乗り、徴兵から逃れるために旅へ出ます。若者に見えないようにひげを伸ばし、ラジオの修理などを請け負いながら細々と生活していましたが、持ち出した金は底をついてしまいます。

阿貴子との出会い

ある時知り合った砂絵屋の男から、砂絵の商売方法を教わり、子供が集まる場所で砂絵を見せて売り、一人で暮らせるくらいの収入を得ることができるようになります。そこで知り合ったのが、阿貴子でした。阿貴子は、親から勧められた相手と無理やり結婚させられそうになり、家を出てきたのだと言います。帰るあてのない二人は心と体を寄せ合います。

浜田の職場での立場

浜田は、大学に入る前に徴兵忌避者であることを理事に伝えていました。隠しているわけではありませんが、特に口に出すことでもないので黙っていました。ところが大学の周辺で起こった泥棒騒ぎをきっかけに、職場の人間が濱口が徴兵忌避者であることを知っており、さらに彼のことをどう思っているのかが明らかになります。

徴兵忌避者への目線

戦争中であれば警察に捕まるような人間が、運良く難を逃れ、今の日本だからこそ安穏と暮らしていられるのだ。腰抜けめ。そんな周囲の声が聞こえてくるようです。宴会の席では、兵役を体験した者たちの一体感や、高揚ぶりにはついて行けず、かと言って無関心ではないのだ、という空気を醸します。肩身がせまいですね。

妻との生活

そして若い妻との生活は、穏やかなものでした。年齢差があるため、夜の生活でうまくいかないところもあるのですが、妻のちょっとカチンと来る部分も、若さゆえの愛嬌にも感じられ、概ねうまくいっていました。が、浜田のもとに舞い込んだ異動の件をきっかけに、二人の間に不穏な空気が漂いはじめます。

緊張感あふれる逃亡生活

浜田の旅は東北、九州、四国と全国を回ります。訪れた先ざきで、自分の正体が明らかにならないように、細心の注意を払って過ごしています。違和感のあるやりとりが発生すると、「ばれたのではないか」「明日にでも警察がやってくるのではないか」と心穏やかに過ごすことのできない日々が続きます。

阿貴子との別れ

阿貴子と出会い、女を愛することを知った浜田。しかし、女のカンであるのか、阿貴子に本当は別の名前があるのではないか、と見破られてしまいます。緊張感ある生活に疲れていた浜田は彼女に事実を話し、二人は彼女の実家で暮らすことになります。しかし二人に別れは訪れるのです。

まとめ

徴兵忌避者の、スリリングな逃亡生活。医者の息子であることを隠し、テキ屋の言葉を覚え、その筋の者っぽく振る舞う。いつかバレてしまうのではないかと読む方もヒヤヒヤします。そして、誰もが殺し合いなど望んでいないはずなのに、殺すことを拒否した者が非国民と呼ばれる世の中。

戦争が終われば、平和であるはずなのに、戦争の功績を勲章のようにぶら下げ、盛り上がる男たち。そして戦争が終わっても世の中と戦い続けることになる浜田。戦争を、徴兵忌避者という目線から描いた物語です。戦争になんの意味があるのか、どんな価値があるのか。そうしたことを考えさせられる一冊です。

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