老人が指さした先にあるものとは

『天上の葦』上・下     太田 愛(著) 角川文庫

あらすじ


渋谷のスクランブル交差点で、一人の老人が空を指さした後に絶命した。
興信所を営む鑓水と修司のもとに、老人が最期に見たものは何だったのかを突き止めれば高額の報酬を払う、という依頼が舞い込む。

一方、この老人が亡くなった日に、一人の公安警察官が姿を消す。停職中の刑事・相馬は非公式にこの男の捜索命じられる。二つの事件の先には何が潜んでいるのか。

小さな興信所に舞い込む奇妙な依頼

大手興信所の下請けをしながら何とかやっている興信所の、たった二人従業員・鑓水と修司。その二人のもとに奇妙な依頼が舞い込む。それは、渋谷の交差点で天を指さし、亡くなった老人・正光が指の先に何を見ていたのかを調べてほしい、というもの。

期限は二週間、報酬は何と1000万円。しかも依頼者は鑓水たちと過去に一悶着あった相手。若い修司は反対しますが、サラッと受けてしまった鑓水に、どうやら事務所存続の危機に至るような借金があることを知ります。そして、この報酬金でその借金を返済しようとしていることも。

行方不明の公安刑事を捜索することになった相馬刑事

一方、鑓水たちと食事をしようと興信所に向かっていた停職中の刑事・相馬は、公安の前島に呼び出され、彼の部下である山波を捜すよう命じられます。公安内部でも問題になるとまずいということ、そして交通課に異動となった相馬を刑事課戻してやる、という条件に、相馬は山波を探し始めます。

亡くなった老人・正光という人物


鑓水と修司は正光の足取りや過去を調べはじめます。戦後産科医となり、長く現役として活躍していたが、数年前に引退し、施設に入居していたこと。死亡した日は外出し、どこかに向かっていた、あるいは向かった場所からの帰りだったということ。そして、どうやらテレビ局の社長に会いにいったようだ、ということを突き止めます。

行方不明の公安刑事・山波の足取り

山波の周辺や足取りを調べはじめた相馬は、彼が新たに始まる報道番組のキャスター・立住の周辺を張っていたことを知ります。そして何者かに襲われ、満身創痍の状態で逃げているらしいという事も。相馬自身も、公安がいったい何をしようとしていたのか疑問を持ちはじめます。

遣水たちがたどり着いた瀬戸内海の小島

正光の産科医以前の過去、山波の足跡から瀬戸内海の小島にたどり着いた三人は、正光に葉書を送った人物をさがしはじめるのですが、島の人々の対応はなかなかに厳しく、それだけ何か隠さなければならないことがあるのではないかとの予感も抱かせます。

山波が島へやってきた日に起こった出来事を推理し、村の老人に話した鑓水。そこで老人たちは、正光の過去や自分たちの過去について話しはじめます。それは鑓水たちが生まれる前、戦時中のことから一連の出来事は繋がっていたのです。

老人の死と公安刑事の失踪が繋がるとき

戦争を経験した産科医の過去から現在までの歩み。
日本という国を、外から見る視点を与えたいと考えるキャスターと製作側の意向。
公安と報道、政治家の関係とそれぞれの思惑。

目の前の利益に囚われた人間たちと、日本という国家の未来を守りたいという人間たちとの戦いの物語です。間に入った鑓水たちが、それぞれの背景と目的、行動の理由を明らかにしていきます。

まとめ

調査を続けるうちに終われる立場となった鑓水たちの緊張感ある逃走劇、その緊張を弛緩させるような鑓水の愛嬌ある言動など、絶妙なバランスを持ってテンポ良く物語は進んでいきます。上下巻というボリュームながら、その長さを一切感じさせません。


日本という国が幸せな国であるということ。その幸せな国がふとしたきっかけで坂を転がるような事態に陥ってしまうことがあるということ。それは、戦争を経験した人間たちだからこそ、幸せを強く感じ、絶望に向かって回り出す歯車を、何としてでも止めようと力を尽くすのかもしれません。

報道が持つ力とそのあり方、そしてそれを誰が動かしていくのか。報道というものについて改めて考えさせられる物語です。

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