こちらは七つの小さな世界で
夫婦や親子、姉妹などが
苦しみや苛立ちを抱えながらも
その中で喜びや幸せをそれぞれに
見つけていく物語よ。
2022年の本屋大賞3位の作品だな。
どんな部分が読者に響いたんだ?
妊活中のモデルや離婚して
実家に戻ってきた姉など
ままならない状況にいる人々を
描いているのだけど、彼女たちは
決して打ちひしがれているだけでは
ないのよ。
ほうほう。苦しい状況の中で
彼女たちがどんな行動を
とっていくのか。そしてどんな
結果を得るのか、気になるぜ。
『スモールワールズ』一穂 ミチ (著) 講談社文庫
あらすじ
夫婦、親子、姉妹、先輩と後輩、知り合うはずのなかった他人。
七つの小さな世界で、彼らは焦りや苛立ち、苦しみや絶望を抱き、また小さな喜びや幸せを見つけていく。
読む者の深い部分を震わせる、長く余韻が残る7つの物語。
ままならないものを抱え生きる人々
モデルの美和は妊活中ですが、なかなか恵まれません。
夫との仲は悪くはありませんが、どうやら夫は浮気をしている気配が。
子供のいない二人のマンションには中学生の姪、有紗がよく遊びにきます。
ある夜、向かいのマンションの外廊下で中年男性が中学生くらいの男の子を怒鳴りつけているところを見かけます。
その少年は有紗と同級生で笙一と言い、父親に嫌われているため、父親が寝る時刻まで家に帰れないのだとか。
別の日の夜、コンビニで笙一を見かけた美和は思わず彼に話しかけます。
子供ができないことで自分に何かが欠けていると思い、涙する美和を不器用に慰めてくれた笙一を好ましく感じる美和。
ある日、ヨガ教室が中止となり家に戻ってくると誰か人のいる気配が…(「ネオンテトラ」)。
最強で最恐の姉が帰ってきました。
どうやら離婚することになった様子。
高校生の鉄二は体も声も大きい姉に頭が上がりません。
結婚相手も大変だったのだろうと同情しつつ、また姉に引きずり回されるのかと震えます。
姉と街を歩いていると、駄菓子屋の奥に鉄二の同級生、菜々子がいました。
菜々子に心ない言葉を投げつけた子供を姉が叱りつけたとことで、二人は意気投合。
菜々子がそんな言葉を言われる理由を聞いた鉄二は驚き、自分が抱えているものに目を向けます。
店にあった金魚すくいに夢中になった姉は三人で金魚すくい選手権に出場すると決めるのですが(「魔王の帰還」)。
まとめ
自分の力だけではどうすることもできないような、苦しい思いや悲しみを抱き続ける人たち。
しかし、そこに向かっていくことで一筋の光を見出していくのです。
手を差し伸べることもできず、かける言葉も見つからないような心がぎゅっとなる物語たち。
それでも、その世界に生きる彼らと同じものを見、そこにある感情を味わうことができる幸せをもたらしてくれるのです。
何度も読み返したくなる、胸に留めておきたい一冊です。
<こんな人におすすめ>
生きていく中での苦しみや葛藤、そして諦めや希望を描いた物語を読んでみたい
名前がつかない思いを丁寧に描いた物語が好き
一穂 ミチのファン
うわ〜 結構ヘビーな内容でも
あるんだけど… キャラが秀逸で
そこが軽さを出してくれてる。
自分の周囲にはいそうにないけど
彼らに深く共感してしまう不思議…。
それぞれの小さな世界で
彼らが抱える苦しみや幸福などの思いを
大切に胸にしまっておきたくなるような
物語ね。
本やイラストレビューが気に入っていただけたらポチッとお願いします。