こちらは着物にまつわる職人たちの
周囲で起こる恋愛が絡んだ11編の
謎解きを収めた短編集よ。
着物関係の職人かあ。
どんな仕事なのか、その
内容もちょっと気になる。
『蔭桔梗』では紋章上絵師が
主人公よ。着物に紋を入れる
仕事なの。新しい取引先で
20年ぶりに昔の恋人と再開し
ある着物の紋の入れ直しを頼まれるわ。
ほほう。昔の恋人ね。
当時はどんな原因で別れて
しまったんだろう?
『蔭桔梗』泡坂 妻夫 (著)創元推理文庫
あらすじ
新宿下落合で紋章上絵師をしている章次は、仕事で20年ぶりに元恋人の山本賢子と再開。
出会ったきっかけは紋であり、また二人が離れるきっかけとなったのも紋だった…。
紋に込められたある「思い」とは。
表題作「蔭桔梗」のほか、着物にまつわる職人たちの周囲で起こる、恋愛が絡んだ11編の謎解きを収めた短編集。
紋が再び引き寄せた縁
引退し、東京の家を引き払うことになった先輩から、銀座「きぬ本」の仕事を引き継ぐことになった、紋章上絵師の章次。
きぬ本の誂部長、山本賢子はかつて章次の恋人でした。
20年ぶりに再会した賢子とのやりとりはビジネスライクなもの。
また、彼女の指には結婚指輪が光っています。
章次は二人が距離を縮めた昔の出来事を思い出します。
紋の聞き違い、伝票への記載謝りで客の注文と異なる紋が入ってしまい、賢子のミスとなるところを章次が急ぎ紋の入れ直しをしたことで、賢子は難を逃れたのでした。
二人の仲は一年半ほど続きましたが仕事が忙しく、時間が取れない日が続きます。
さらに章次の父が倒れ、さらに仕事が増えます。
やむなく一部の仕事を外注に回します。
仕事がひと段落した後賢子に連絡を入れると、ある紋入れについて「ずいぶん乱暴な仕事をするようになったのね」と言われます。
その理由を問いただすこともできず、やがて父が亡くなり疎遠となりました。
そして20年後、賢子から私物の着物の紋の入れ直しを頼まれます。
その紋を見て章次に衝撃が走り、20年前の記憶とつながっていくのです(「蔭桔梗」)。
まとめ
今よりも着物を着る人々が多かった時代、着物に関わる職人たちもまた数多く存在しました。
洗張屋、紋章上絵師、仕立屋、浸抜屋、悉皆屋。
ミシンや機械でできる安い品物が増え、彼らの仕事も減っていきます。
そんな時代の流れの中でひっそりと仕事を続ける職人たちが体験したり、耳にした仕事と、男と女の縁と謎。
それは時に物悲しくもあり、また自分の欲を貫くたくましさがちらりと垣間見えるものでもあります。
美しい着物やしっかりとした仕事をする職人たちと、男女の関係が見せる思わぬ一面の対比に驚く短編集です。
<こんな人におすすめ>
紋章上絵師や悉皆屋など着物にまつわる職人を描いた話に興味がある
男女の恋愛にまつわる謎を描いたミステリを読んでみたい
泡坂 妻夫のファン
おお… 恋愛と仕事が
見事に絡んだミステリだ。
短編ながらもずしりと重い
感情が伝わってくるな。
着物にまつわる様々な仕事の
内容を学びつつ、その周囲に
うずまく男女の機微が
丁寧に描かれた物語ね。
生誕90年記念出版第一弾、第二弾のイラストブックレビューはこちらからご覧いただけます。
本やイラストレビューが気に入っていただけたらポチッとお願いします。