こちらは死んだ夫が実は
その名前や生い立ちと全く
別の人間だった、というお話よ。
え どういうこと?
じゃあ一体、その男は誰だったんだ?
弁護士がその男の正体を
確かめるためにいろいろ調べて
いくのだけど、次第に奇妙な
感覚を覚えるの。
へえ。他人として生きる道を選んだ
そいつはどんな男だったんだろう?
『ある男』 平野 啓一郎 (著) 文春文庫
あらすじ
弁護士の城戸章良のもとに奇妙な相談が舞い込む。
かつての依頼者・谷口里枝は、谷口大祐と再婚し、幸せな日々を送っていたが、大祐が仕事中に事故死する。
しかし、「大祐」は全くの別人だったと言うのだ。
城戸は本物の「大祐」や「大祐」になりすましていた男について調べるうち、奇妙な感覚を覚える。
亡くなった夫は誰だったのか
夫の大祐が事故で亡くなり、葬式も済んでしばらくした頃、里枝は大祐の実家に連絡しようと考えます。
大祐からは実家の兄と不仲で絶縁状態のため、何があっても連絡するな、と生前言われていたのですが。
弟が亡くなったとの連絡を受けやってきた兄・恭一は遺影を見るや「これは弟とは別人の全く知らない人間」だと言います。
里枝と恭一はいっしょに警察に行き、事情を話しますが、失踪届を出すようにすすめられたのみで、動いてくれる様子はありません。
亡くなった人間は、自分の夫だった男は誰なのか?
困り果てた里枝は弁護士の城戸に相談。
城戸は大祐の調査を進めながら、自身の妻との不協和音、自分が在日三世であることでの社会的・内面的影響、そして愛と幸福について深く考えていきます。
まとめ
別の人間になる、ということはこれまでの自分を消失させることでもあります。
そのままの自分でいることで幸福よりも圧倒的に不幸であることが勝るのであれば、別人となって幸福な事柄を上書きしていくしかないのかもしれません。
「何者であるか」によって起こる不幸と幸福を深く深く描きだす物語です。
<こんな人におすすめ>
死んだ夫が別人だったという物語に興味がある
他人の人生を生きる男の心情や背景を描いた物語を読んでみたい
平野 啓一郎 のファン
他人になることでしか
手に入れることのできない
幸福もあるのかな…( ; ; )
自分であることの苦しさや
幸福とは何なのか、ということを
考えさせられるわね。
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