こちらは女性であることで
肉体的なことや世間の価値観から
受ける苦しみ、そしてそれに
立ち向かっていく姿を描いた
短編集よ。
ほほう。例えばどんな話が
あるんだ?
昭和な雰囲気の会社で働く
まぶたに赤いアイシャドウを
塗った女性や、コロナ禍の中
幼い娘を連れてホテルに泊まる
母親などのお話ね。
結構ユーモアある文章を
書く作者だからなあ。今回は
どんな話になるのか楽しみだぜ!
『男の子になりたかった女の子になりたかった女の子』
松田 青子 (著) 中公文庫
あらすじ
手塩にかけて育てているのに一向に「身を固めない」娘、ザ・昭和な会社で働く赤いアイシャドウを塗った女性、コロナ禍で幼い娘を連れてホテルへ逃げ込んできた母親。
女であることの、肉体や価値観から受ける苦しみや立ち向かっていく姿を描く短編集。
「身を固めない娘」の真意とは
妻の美佐子が納品に出かけているため、正吉は一人でゼリーを作るのと同じ工程を作業します。
ひと段落し、昼寝から起きると冷蔵庫の中から声が聞こえてきます。
水着の好みのタイプや、海に行ったら何する?などとおしゃべりする娘たちの声に耳を傾け、この娘たちはすぐに身が固まりそうだ、と感じます。
娘たちにも個性があり、積極的なタイプもいれば控えめで口数少ないタイプもいます。
そっと見守り、無事に身が固まれば納品です。
しかし、他の娘たちが順調に固まる中、なかなか固まらない娘がいました。
いよいよ捨てるしかないか?と夫婦で話し合っていると「えー、それはちょっと、いくらなんでも勝手なんとちゃいますの?」と娘が口を開き…(『ゼリーのエース(feat.「細雪」&「台所太平記」)。
大学生の夜野は「女性募集」と書かれた貼り紙に興味を持ち応募。
事務所はザ・昭和の雰囲気が漂う小さな会社。四十代か五十代くらいいの桑原さんという女の人がいて、地味な人なのですがまぶたに真っ赤なアイシャドウを塗っていました。
気になった夜野がたずねると桑原さんは「この色じゃないと駄目」「いつもこういう気分だから」と答え、「韓国映画で見たの」と続けます。
その時は笑ってやりすごした夜野でしたが(「桑原さんの赤色」)。
まとめ
生理への嫌悪やブルマへの憎しみ。
女性であれば共感できる部分がいくつもあるのではないでしょうか。
「身を固める」という意味をゼリーの娘に例えて物語とするアイデアも楽しく、またウイットが効いていておもしろいです。
また、貼り紙に書かれた「女性募集」の中には多くの意味が含まれていることに、心の奥底で「やっぱりな」「そうなんだよ」と深く頷く自分がいます。
そして、コロナ禍で幼い娘を連れホテルへ逃げ込んだ母親の、全方位へのアンテナの向け方、疲労、喜びや頭の中で考えていることがダイレクトに伝わり、育児中の「母」の部分が自分の中で肥大化していく感覚が思い出されたり…。
様々な女性たちが女としての肉体や価値観から受ける苦しみや不快な思い。
そこに立ち向かっていく姿に「救い」を感じさせてくれる短編集です。
<こんな人におすすめ>
世間の女性に対する価値観に違和感を覚えたことがある
女性であることの枷や苦しみに対し、救いをもたらせてくれる物語を読んでみたい
松田 青子のファン
ゼリーの娘が「身を固める」って
おもしろいよなあ。その後の
親と娘のやりとりも「あるよなあ」
と頷く読者も多いんじゃないか?
世の中の女性という立場、価値観を
様々な表現で描き出す物語ね。
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