『つまらない住宅地のすべての家 』
津村 記久子 (著) 双葉文庫
こちらはある女性受刑者が
脱獄したことで、住宅地の人々が
集まり見張りをすることになり
これまで関わりのなかったそれぞれの
家族の事情などが見えてくるの。
どこの家庭も何かしら
事情はありそうだけどな。
問題になりそうな家庭も
あったりするのか?
母親が出て行って父と子の
二人暮らしの家庭、ネグレクト
されているのではと思われる
小学生姉妹のいる家庭なんかも
登場するわね。
なるほどねえ。家庭に問題が
ありそうでも、今の時代
他人が関わるのは難しい部分も
あるよなあ。彼らはどうやって
問題に気づいて対処していくんだろう。
あらすじ
横領の罪で逮捕され服役していた女性受刑者が脱獄。
どうやら自分たちの住む地域に向かっているという情報を耳にした付近の住民たちは、協力し交替しながら路地を見張ることに。
派手さのない、一見つまらないようにも感じられるこの事件をきっかけに、それぞれの家族の状況が見えてくると同時に、互いに影響を与え合いちょっとずつ彼らの考え方や行動を変えていく。
逃亡犯をきっかけにご近所さんにつながりが
丸川家は母親が家を出て行ったため、父親の明と中学三年生の息子・亮太の二人暮らし。
母親がいないことを近所の人々に気付かれないよう、無人の部屋も窓を開けたりと日々の生活に気を使います。
ある日、二つ隣の県の刑務所から女性受刑者が脱獄し、逃亡中とのニュースが流れます。
逃亡犯はこのあたりの出身らしい、という話を聞いた明は自治会長として、地域の人と協力し見張りをしようと思いつきます。
路地に沿った十軒の家に声をかけ、路地の出入り口にある笠原さんの家の二階を借り、交替で見張ることに。
老夫婦が暮らす笠原家、若い男性が一人で住む大柳家、老母亡き後五十代女性が一人で暮らす山崎家、壮年の男性が一人で住む松山家、夫婦と十二歳の息子の三人家族の三橋家、そろって大学に努める四十代夫婦の相原・小山家、小学生姉妹と祖母、母親の四人暮らしの矢島家、年老いた母と三十六歳の息子の二人が暮らす真下家、祖母と父母、3人の姉弟が住む長谷川家。
関わることのなかった近所の人々がゆるやかにつながり、広がりを見せ、行き止まりのように見えていたこれまでの暮らしに新たな道を見つけていきます。
そして逃亡犯と彼らもまた、意外な形で関わりを見せるのです。
まとめ
一人暮らし、老夫婦の暮らし、子供がいる家族の暮らし。
一見何のへんてつもない生活を送っているようでも、深刻な状況を抱えていたり、外に出すことのできない悩みを苦しみを持っていたりします。
この住宅地の人々は現代人らしい距離感と節度を持って行動し、発言しているため互いのことは目に見える外側の部分しか知らない、という関係でした。
しかし逃亡犯を見張る、という行為からいつもと違う時間、状況で顔を合わせ会話をするうちに、相手に対して意外な発見をすることも。
こうした、これまでになかった関わりは思いがけない広がりと、現状の問題の解決のきっかけとなるような新たな繋がりを見せるのです。
外から見たらつまらない住宅街に住む家族や一人一人の生きる姿、生きてきた姿が鮮やかに浮かび上がる、ほのかな希望を照らしだす物語。
<こんな人におすすめ>
これといって特徴のない住宅街に住む、それぞれの家庭について描いた話に興味がある
特に関わりを持たなかったご近所さんがあるきっかけをもとに関わりあい、互いに影響を及ぼしていく話を読んでみたい
津村 記久子のファン
派手なことは起こらない。
全部見事に解決!ってわけでも
ない。なのになんだろう、この
なんとも満たされた気持ちは。
ご近所という距離感だからこそ
相手の悩みや問題に気づいたり
適度に寄り添ったり手を貸したり
することができるのかも
しれないわね。
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