こちらは明治時代に小説家を
目指した少女がその強い思いを
胸に生きていく人生を描いた物語よ。
明治時代の文壇って男ばっかりの
イメージあるなあ。当時って女性が
小説を書くことはどんな感じだったんだろう?
主人公の冬子は十七歳。小説家の
弟子になりたいと考えたのだけど
期間限定で女中として小説家のもとで
働くことになったのよ。
ふうん?作家のお世話をするわけだから
作品には触れられるのかな?他に弟子たちが
いるなら彼らの話を聞くのも勉強になるのかなあ。
『共謀小説家』蛭田 亜紗子 (著) 双葉文庫
あらすじ
男の世界であった明治時代の文壇。
十七歳の少女、宮島冬子は小説家になることを夢見て文学者・尾形柳後雄のもとで女中として働きながら執筆に励んでいた。
同じ屋敷に住む尾形の男弟子たちが次々と文壇デビューする中、家事をこなしつつのこともあり、書き進めることのできない冬子は焦りを感じる。
そんなある日、冬子は尾形から、作品を書き上げるために協力を求められるのだが…。
小説家を志す冬子の決意
地元の知人から借りた一冊の本。
それは尾形柳後雄の小説でした。
風雅な文章に陶然とし、話し言葉で描かれたなまなましい会話に胸を高鳴らせ、あっという間に物語の世界へ引き込まれた冬子。
いくつもの作品を読み、いつしか自分で小説を書いてみたい、と思うように。
尾形のもとで学びたいと考えましたが、女の弟子は取っていない、とのこと。
女中が辞めて困っているということで、はたちまでの期限付きで冬子は尾形家の女中として働きはじめます。
尾形には漣と藤川、さらに後からやってきた野尻の三人の弟子がいました。
尾形を尊敬し、互いの作品を評し切磋琢磨する彼らをうらやましく感じる冬子。
自分も作品を、と筆を取るも日々の家事に追われ、思うように進みません。
そんな中、尾形から「私の執筆を手伝ってくれまいか」と言われ、喜び勇んで仕事部屋に入った冬子。
尾形が要求する手伝いとは…。
尾形の口利きで自分の小説が掲載された冬子。
しかし話題ひとつにものぼる様子はありません。
ほどなくして妊娠が発覚しうろたえる冬子に、野尻が手を差しのべます。
「あなたとおれで共謀しないか」。
そんな言葉で二人の結婚は決まり、やがて生まれてきた息子を二人の子として育てていきます。
しかし野尻の生活は荒れ、さらに弟子の作品を自分の名で出すようなことも。
そこで冬子は彼に向かって「私にも書かせてください。代作を」と訴え…。
まとめ
女であるがゆえに、評価の舞台に上がることすら難しい時代。
師の創作のために己の身を投げ出し、子を産み育てながらも書くことへの情熱の炎は決して消えることのなかった冬子。
共謀という形ながら誰よりも強く「書く」というい形で結ばれた夫との関係。
その夫もまた、くすぶる火種を持ち続けていたのでした。
怒りや悲しみ、苦しみを抱え、決してあきらめることなく執筆の世界を、そして愛と修羅を生きた一人の女性を描く感動の物語です。
<こんな人におすすめ>
男の世界だった明治時代の文壇を志した一人の女性を描いた物語に興味がある
作品を書き発表するためにあらゆる手段を講じた女性の話を読んでみたい
蛭田 亜紗子のファン
まさに「書く」ことに人生の
全てを捧げているのがすごい!
これほどの覚悟を持って小説を
書いているとは…
「書く」ことで結ばれた夫婦の
絆もまた、切ないものがあるわね。
あらゆる感情を飲み込んで筆に乗せていく
小説家の鬼気迫る思いを肌で感じる物語ね。
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