「最後の事故」からの日本という国を描く

『錆びた太陽』   恩田陸 著 朝日文庫

あらすじ

テロリストにより幾つもの原発が爆破されてから100年が過ぎた日本。国土の2割近くが立入制限区域となり、この地域での処置を行うために7体の人型ロボットが活動をしている。彼らの居住区に、国税局から派遣されてきたという女性、財護徳子が現れ、ある実態調査についてロボットたちに協力を仰ぐ。謎の多い徳子や理解できない依頼に戸惑いつつも、ロボットたちは徳子に協力することにしたのだが…。

原発テロ後の日本

環境テロリストがもっとも防御の甘い日本を狙って、原発を破壊するというテロ活動を行なった、という設定が何だか実際にありそうですね。そのテロリズムの結果、国土の2割近くが立ち入り制限区域になってしまいます。当時の近隣住民は放射能の影響で多くが命を落とし、それまでの人口減と重なったこともあり、日本は人口が減り続けています。新しい産業が生まれることもなく、税金を取る先も減る一方で、あまり明るいとは言えない未来の日本。

人型ロボットの活躍

そして、人口が減った日本を助けるべく、人型ロボットたちが活躍します。立ち入り制限区域の調査や、トラブルの対応など、人間にできない部分を助ける活動をしています。諸外国では人型ロボットを導入することに、人間の仕事が取られるなどの理由から大きな拒否反応を示したようなのですが、日本においては友好的に受け入れられ、普及が広がったのです。この辺りも、某猫型ロボットや少年型ロボットのアニメなどで馴染みがあったから、とお茶目な説明がなされています。

国税庁の財後徳子と申します!

そこへ現れた謎の税務署員、財後徳子。立て板に水のごとく喋りまくる彼女は、ロボットたちに調査の協力を願い出ます。その依頼内容は、ゾンビについての生活実態や数を調査するというものでした。テロの事故で命を落としたはずの人間が、ゾンビとなってふらつき、生きた人間に食らいつく、という事件が起こっていました。人間が減少する中、ゾンビがどこかの生活区域でインフラを使っているのであれば、何らかの対価を国に支払うべきではないのか、という理論です。

徳子の依頼に対し、ロボットたちの反応は?

無茶苦茶だな、オイ。とロボットが心の中でつぶやいたかどうかは知りませんが、この税務バカと言える徳子に協力することになったロボットたち。ですが、どうも彼女が知りたいことはゾンビのことだけではないようなのです。

ロボットの作動環境、記憶の仕組み、人間に対する考え方など、細かに設定されています。機械であることを強調しながらも、インストールされているキャラ設定の違いなどから、発言や性格などが異なり、人間臭い部分を感じさせます。屈強で無敵に近い彼らが、一税務署員である一人の若い女性に振り回されているところも、どこかユーモラスな印象です。

まとめ

原発テロが起こった後の日本という国が、どのようになっているのか。荒れた地で、死人たちが彷徨い、農業も産業も衰え、人口は減少していく。希望的要素が無い中で、司令に従い人間のために働くロボットたちに、人間は「希望」というデータをインストールしたのかもしれません。一方、人口減少の中での新たな税務対象の発見という使命を抱えた徳子は、絶望の中でもわずかな希望を見出そうとする人間の象徴的な姿とも言えるでしょう。

人間とロボットのユーモア溢れるやり取りの裏に、社会の不条理さや無力さも隠されています。これまでの原発事故の事実があってなお、稼働を続ける日本。その行き着く先はどんなものなのか、改めて考えさせられる物語です。

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