こちらは女子大学生が
ふとしたきっかけで食欲が
止まらなくなってしまう様子を
描いた物語よ。
そりゃ大変だ。過食症なら
病院へ行ったほうが
いいんじゃないか?
体調は悪くないのでしばらく
様子を見ることにしたようよ。
でも恋人の様子がおかしくなったり
弟や友人と過ごす時間など彼女の
周囲で様々なことが起こるの。
ふうん。彼女の周りで起こる
出来事と食欲って何か関係して
いるんだろうか。気になるぜ。
『シュガータイム』小川 洋子 (著) 中公文庫
あらすじ
大学四年生のかおるは、自分の食欲が普通でないことを感じ、食べたものを記録するために日記をつけはじめた。
『家庭医学事典』を開いてみても、その解説はかおるの状態とずれていてしっくりこない。
あらゆる食材が揃う、静かなサンシャイン・マーケットで食材を購入し、食べる。
恋人である大学院生の吉田さんとの関係、親友の真由子との語らいと、ちょっとした冒険、そして弟・航平と過ごす時間。
青春最後に流れる、美しく透明な時間を描く物語。
止まらない食欲と恋人との関係
ある時ふと気づいたらすさまじい食べっぷりだったかおる。
きっかけはバイト先での出来事や弟が近くに越してきたことのような気もしますが、定かではありません。
近所にあるマーケットで整然と並ぶ食品たちの姿を愛でつつ、食材を購入します。
自分の食べた量を知るために、食事の記録を日記としてつけはじめたかおるは、そのボリュームに驚き、親友の真知子に相談します。
病的なものではないようなので、しばらく静観しようということに。
しかしかおるは、恋人の吉田さんにこのことを伝えることができずにいます。
ある日、真由子とその彼、弟の航平、吉田さんたちと野球観戦に行く約束をします。
ところが吉田さんは途中事故に遭い、会場には来れませんでした。
以降、吉田さんからの連絡が途絶えます。
吉田さん一緒に事故に遭った女性があやしい、という真由子とともにその女性を探しにいくかおるですが…。
まとめ
湧き出る食欲に対し、かおる本人はそれ以外の欲を持ちあわせていないように見えます。
それは成長を止めてしまった弟・航平の静かな佇まいを目にしてきたからかもしれません。
美しく透明で静謐な時間に包まれたかおるの中の、動であり熱のある部分が恋人であり、食欲である。
そんな風に感じる、美しい青春小説です。
<こんな人におすすめ>
食への奇妙な感覚と青春の日々の出来事を連動させた物語に興味がある
透き通った情景と悲しみが漂う文章を楽しみたい
小川 洋子のファン
美しくてどこか寂しい空気が
漂っているんだけど、食事の
シーンは色鮮やかで印象に残るなあ。
食べているのにどこか「無」で
あるようにも感じられるわ。
食べることによってなくなる食材と
失っていく人との関わりが連動して
いるのかもしれないわね。
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