こちらは18世紀のロンドンを
舞台に解剖教室で見つかった
あるはずのない屍体の謎に
挑んでいくミステリよ。
18世紀かあ。当時の解剖学は
どんな様子だったんだろう?
イギリスの場合は外科医よりも
内科医のほうが立場が上。
屍体を解剖することに周囲は
否定的で、解剖のための屍体も
数が決められていたの。
そうなんだ。現代と違って
死因の特定やら死亡時刻の推定が
難しそうだな。発見された屍体は
誰が何のためにそこに置いたんだろう。
『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU― 』
皆川 博子 (著)ハヤカワ文庫
あらすじ
時は18世紀ロンドン。外科医ダニエルが開いている解剖教室で、あるはずのない屍体が発見された。
四肢を切断された少年と顔が打ち砕かれた男。
盲目の治安判事ジョン・フィールディングは、ダニエルとその弟子たちに捜査の協力を要請する。
そこには才能に恵まれた一人の少年が辿った運命があった。
解剖が世の中に理解されていなかった時代に、屍体から多くの情報を得、役立てようと奮闘する彼らが不可能犯罪の謎に挑む。
解剖教室に現れたあるはずのない屍体
ダニエルの解剖教室には5人の弟子が集まり、解剖の準備を始めていましたが、治安隊がやってきたために中断。
ダニエルたちは一体でも多くの様々な屍体を解剖し、医学の発展につなげたいと思っているのですが、実際に許可されているのは身元のわからない屍体のみで数も少ないため、墓あばきに金を渡し、こっそり屍体を買い取っているのです。
用意していた場所に屍体を隠し、治安隊をやり過ごしたダニエルと弟子たち。
しかし今度は治判事ジョン・フィールディングの助手であるアン・シャーリー・モアとデニス・アボットが続けざまにやってきます。
隠し場所から出した屍体は発見されてしまい、渋々包みを開くとそこには手に入るはずだった妊婦ではなく、四肢を切断された少年の屍体が。
さらに顔を潰された男の屍体まで…。
驚き、戸惑うダニエルと弟子たち。
しかし、彼らは解剖学の見地を用いて事件の捜査に協力します。
少年の遺体についていた青いインク、消えた四肢の行方、二人の屍体の正体は。
そして屍体を切断しここへ運び入れた犯人は何者で、いつ、どのように行ったのか。
盲目の判事ジョン・フィールディングはダニエルの解剖の見地、姪であり助手でもあるアン・シャーリー・モアが見た情報をもとに真相を探ります。
まとめ
内科医の地位は高く、外科医の地位は低い。
さらに屍体を解剖となると気味が悪い、罰当たりな…と偏見の目で見られていた18世紀のロンドンの解剖医。
外科医のダニエルはひたすらに屍体を開き、ひとつでも多くの情報を取り入れようとしています。
美しい一番弟子のエド、屍体を素晴らしく正確に描くナイジェルなど頼りになる弟子にも恵まれ、彼らとともに判事のジョンと手を携え不可能犯罪の謎に挑みます。
当時の空気、人々の価値観、仕事への情熱と才能が認められないもどかしさ。
様々な立場の人々の思いが波のように押し寄せ、読後に深い余韻が残るミステリです。
<こんな人におすすめ>
18世紀ロンドンの解剖学事情、街の様子や価値観を描いた話を読んでみたい
解剖学教室のメンバーや盲目の判事が不可能犯罪に挑むミステリーに興味がある
皆川 博子のファン
うわあ ロンドンってすごいところだな。
そんなところで自分の仕事に情熱を
持って取り組む登場人物たちの姿がいい。
どのキャラクターも際立っているけど
ロンドンの街にぴったりだな。
屍体の謎の解明も見事だけれど
登場人物ひとりひとりがしっかりと
描写されていて読み応えがあるわ。
ミステリでもあり、深い人間ドラマと
しても楽しめる一冊ね。
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