こちらは「食」をテーマに
明日につながる食や人の思いを
綴る六つの物語よ。
「食」は人気のテーマだよな。
どういったシチュエーションの
話があるんだ?
子供や家族のことを思って
食事を用意していた女性が
自分の好きな食べ物がわからなく
なるの。それで自分の母親は
どうだったのかなと思いを馳せてみたり。
なるほどねえ。確かに
母親は家族の好みの料理を
出してくれるけど母の好みはと
言われるとわからないかも。
『まだ温かい鍋を抱いておやすみ』
彩瀬まる (著)祥伝社文庫
あらすじ
保育園の年中クラスに通う息子を育てている素子は、友人の珠理を誘い、二人で日帰りの温泉旅行へ。
旅館で提供された色とりどりの旬の料理を堪能しつつ、家族のための食事を毎日考えているうちに自分が何を好きか、何を食べたいのかがわからなくなっていることに気づく。
そして自分自身も、母親の好物が何だったのかを知らなくて(「ポタージュスープの海を超えて」)。
日々を乗り越えていく、明日につながる食と人の思いを描く六つの物語。
自分の、そして母の好物って何?
子供を連れてスーパーに行き、栄養と家族の好みと調理時間をあれこれと考え悩んだ結果、お惣菜も購入して何だかまとまりのない食卓になり、ため息をつく素子。
同じく幼い子供を持つ友人の珠理を誘い、日帰りの温泉旅行へ出かけます。
入浴を終え、部屋に運ばれてきたのは秋を感じさせる、旬の食材を使ったランチ。
舌鼓を打ちつつ、家族の好みや栄養などいろんな要素を考えているうちに、自分が何を食べたいのか分からなくなってた、と素子。
そんな自分自身も、すでに亡くなっている母親の好きな食べ物を知らないことに気づきます。
酒を飲み、ひと休みした後バスへ向かおうとしますが、何と温泉のお湯が漏れ、あたり一面お湯だらけ。
旅館の人が出してくれたビーチサンダルを履き、ざぶざぶと歩きながら駅へ向かいますが、一向にたどりつけません。
迷ったかも、と持っていたホイッスルを吹き鳴らしていると、クリーニング屋の二階の窓が開き、初老の女性が顔を出し、素子たちを招き入れてくれました。
着替えを貸してくれて、濡れた素子たちの服を洗ってくれると言います。
感謝しつつちゃぶ台の方に目を向けると、その女性の食事が載っていました。
それは自分の好きなものだけを並べた、潔さと喜びがにじむ、清らかな食卓。
素子は彼女に亡き母の面影を重ねながら、心地よい眠りに引き込まれていき…(「ポタージュスープの海を超えて」)。
まとめ
身体をつくる、心の支えになる、気持ちを込める、受け取る。
食にはそうした様々な意味が生まれることがあります。
やわらかく、それでいて悲しみや痛みをはっきりと自覚させてくれるような文章が心を刺し、その上で鍋からもくもくとわきあがる湯気のように包み込んでくれます。
おいしいだけではない、痛みがあるからこそその味が染み込み、身となることを感じさせてくれる、六つの物語です。
<こんな人におすすめ>
食にまつわる心に染み入るような物語を読みたい
日々の苦しさを乗り越えるための食を描いた短編集に興味がある
彩瀬まるのファン
潔くて清らかな食卓って
なんかいいな。自分の身と
なって自分の足でしっかり
立つための「食」という感じがする。
ひとつひとつが心に
染み込んでいくような
「食」にまつわる物語ね。
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