『オオルリ流星群』伊与原 新 (著) 角川文庫
こちらは一人の女性が帰郷したことを
きっかけに、かつての高校の同級生
たちが集まり、協力して地元に手作りの
天文台を作るお話よ。
へえ。すごいなあ。集まったメンバー
ってのはどんな様子なんだ?
年齢は四十五歳。父親の後を継いだ薬局の
経営がうまくいっていなかったり、バツイチで
別の勉強を始めたり、引きこもりだったりと
様々な状況になっているわね。
ううむ。まあ年齢的にいろいろ
責任なんかも出てくる頃なんだろうが。
皆いろんなものを抱えていそうだなあ。
あらすじ
四十五歳の久志は父の薬局を継ぎ、妻と二人の息子、老いた父とともに暮らしている。
店の売り上げは右肩下がりで手を打たねばと思うが気力が湧いてこない。
そんな折、天文学者になった高校時代の同級生・彗子が帰郷したとの知らせを耳にする。
地元の地に手作りの天文台を立てるという彗子の計画に、高校の文化祭でともにタペストリーを作ったメンバーが集まった。
仲間が抱えていた苦しくも切ない秘密が明らかになる時、彼らの青春時代が再び動き出す。
かつての仲間が展望台作りのために再び集まる
すぐ近くにチェーンのドラッグストアができたことで、久志の薬局は創業以来の危機に瀕している。
同じ薬剤師の妻から、チェーン店のように日用品を置いたり、小さい店ならではの工夫をしてはと提案されるものの、気力が湧いてきません。
そんな折、同級生の修から彗子が帰ってきているらしい、という話を聞きます。
高校三年の夏、文化祭で空き缶タペストリーを作ることになり、久志、修、千佳、彗子、梅野和也、そして言い出した張本人の槙恵介の六人が中心となって一万個の空き缶を使ってオオルリの絵柄の空き缶タペストリーを作り上げたのでした。
しかし恵介は作業の最後から参加せず、十九歳の夏に死んでしまったのです。
この地に戻ってきた彗子は手作りの天文台を立てようと考えていて土地探しから始める、とのこと。
引きこもりとなっている梅ちゃんこと梅野和也をのぞいたメンバー、久志、修、千佳が集まり天文台づくりに手を貸すことに。
あの頃のように一つの目的に向かって共に手を動かすうちに、恵介が皆に話すことのなかった秘密が彗子によって明らかになります。
知ったことで新たに苦しむメンバーもいたものの、無理やり止められてしまった青春の歯車が再び動き出すのを、彼らは感じるのです。
まとめ
人生という道に迷い、不安やあきらめに絡みとられ動けなくなっている、四十五歳のメンバーたち。
彼らは天文台を作る、という共通の目標に向かって歩み始めることで、友の知らなかった一面を知り、自らの胸の奥のあたたかく灯る火を見つけ、再び明日へと向かう力を得ていくのです。
星がつないだあたたかな絆と失われた青春時代の再生を描く、深い余韻が残る感動の物語です。
<こんな人におすすめ>
手作りの天文台を作るために集まった高校の同級生が再び青春を取り戻す物語を読んでみたい
人生に迷い、不安を抱える者達が同じ目的を通して新たな一歩を踏み出していく話に興味がある
伊与原 新のファン
四十五歳というこの年齢だからこそ
当時にはそれ以上をどうすることも
できなかった青春時代を
再びやり直すができたのかもしれないな。
星という遠い場所で光り続ける
ものが彼らを結びつけ
明日への一歩を踏み出す力を
くれたのかもしれないわね。
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