とてつもなく重い扉のその先には、きっと明るい未来がある

『ひきこもりを家から出す方法』 猫田佐文著 集英社オレンジ文庫

あらすじ

影山俊治、二十五歳。中学時代のある出来事をきっかけにひきこもりとなってから10年がたった。世間とのズレがひたすら大きくなる恐怖と絶望に苦しみながらも部屋の外へ出られない日が続く。そんな俊治の部屋に現れたのは、自称ハウスキーパー、綾瀬クリス。可憐なメイド姿がよく似合う十八歳の美少女。彼女は引きこもりを家から出すプロ集団から派遣された敏腕メイドだった。

果たして俊治は部屋から、そして家から出ることができるのか。

引きこもりの暮らしぶり

中学時代、同級生の女子が何気なく放った「きもい」の一言をきっかけに、学校へ行けなくなり、外へ出れなくなり、やがて部屋から出ることができなくなってしまった俊治。食事は一日二回、母親が部屋の前に運んでおき、食事が終われば部屋の前に置いた空の食器を母親が下げます。週に一度ほどシャワーを浴び、食事以外でお腹が空けば階下の台所の冷蔵庫を、家族がいない時間に開けて物色。トイレも家族と顔を合わせないように注意をはらう。そんな生活をしています。

課金のないネットワークのゲームをしたり、時に掲示板に悪意ある書き込みをしたりして日々を過ごしている俊治。高校にも行かず、もちろん大学も、アルバイトの経験もなく、気づけば二十五歳。周囲は進学も就職もして、結婚して子供が生まれている同級生もいることでしょう。自分だけが取り残されていく不安、使い物にならない、嘲られる対象であるという恐怖に悩まされながら、それでも自分の部屋という最大の安全地帯から出ることのできない自分の弱さに絶望しながら過ごしています。

ひきこもりにも種類がある

ひきこもりを「やっている」人と「なった」人がいる、という描写に胸を突かれます。自分の意思で、世の中から距離を置き、自室にこもることを選んだ人と、体が恐怖やストレスに縛られて動けなくなり、自室から出られない人の2タイプが、ひきこもりにもあるということをはじめて知りました。そして、出られないひきこもりの人が自室で過ごす日々が、やりきれない思いに苛まれるために、決して快適ではないのだ、ということも。

両親が選んだ対策とは

両親はプロに依頼します。そこから派遣されてきたのは、十八歳の美少女です。クリスという名の彼女は、ハウスキーパーという名目で影山家の家事手伝いをしながら、毎日少しずつ俊治に語りかけ、彼からの信頼を得るように誠意を尽くします。しかし、あくまでも必要となるのは両親の力。両親からも俊治に対し、言葉かけ、彼を否定せずいったん認める、そして褒める、ということを要求します。

ひきこもりは本人の甘えに過ぎない、と父親は抵抗を示していましたが、俊治に対してこれまできちんと向き合ってこなかった自分に気がつき、心から寄り添い、サポートしようと決意します。そうした家族の変化に初めは戸惑う俊治ですが、自分がこうなりたかった、こういう風にしてみたかったと思う部分をかすかに刺激され、目をそらさずに見てみよう。そんな気持ちに変化していくのでした。

ひきこもる側の心理状態

ひきこもりとは、とてもピュアで傷つきやすい存在であるのかもしれません。周囲の人間は、心配であることはもちろんなのですが、そうなった原因や対応ばかりを熱心に求めるのではなく、本人が安心できる場所を、部屋の外にも作ってあげることが大切なのだということを本書では描いています。心が傷つき、何重にも心をテープでぐるぐると巻きつけている状態です。その傷口を癒すには、まず家族が味方にいること。見守ってくれること。協力してくれること。信用してくれていること。そうした安心感が、次の一歩を踏み出す力となるのです。

まとめ

ひきこもる側、擁する家族側。どちらの立場から読んでもその痛みや苦しみの共感度が高く、胸に響きます。とてつもなく、重く感じられる扉を開くことができたら、そこから先にはきっと明るい未来への道が続いている。そう感じられる感動の物語です。

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