壮大な歴史物語でもあり、ミステリーでもある物語

『東京帝大叡古教授』 門井 慶喜 著 小学館文庫

あらすじ

時は明治38年。熊本から出てきた十八歳の男子学生・藤太は、目指す宿にようやくたどり着いた矢先に、ある手紙を受け取る。それは東京帝国大学法科大学、宇野辺叡古教授から、翌日大学の図書館へ来るように、との内容だった。訪れた図書館では、同大学の高梨教授が殺害される。疑いをかけられた叡古教授を救うべく、高梨教授に関する聞き取り調査を始める藤太だったが。

時代背景

時は明治。日露戦争では優勢で、アジアを下に見ている諸外国に対抗すべく、エネルギッシュに知識を吸収し、国を変えていこうという活気に溢れていた時代です。大学は東京帝国大学や早稲田、慶應などの私学大学が出来始めたところ。日本という国を作り上げていくのだという、強い意志と優秀な能力を持った人間たちが東京帝国大学に集まってきていたのです。

阿蘇藤太の人物像

藤太は熊本の五高という地元では優秀な高校の学生で、卒業後は東京帝国大学で学び、政治家になりたいと考えています。そこで、休暇を使って東京で過ごし、東京帝国大学を見て、教授の手伝いなどをしたいと考えました。五高の先生に勧められて訪れた学生向けの下宿兼旅館で、いきなり東京帝国大学の教授から手紙を受け取ったのです。勧められた宿ではあるが、行くと決めていたわけでもないし、もちろん教授と面識もないのに、なぜ手紙が…。

初めて訪れた帝大で起こった出来事

指定された大学の図書館へ行くと、叡古教授と議論を交わす際には衝突することが良くあったという高梨教授が倒れ、息を引き取ります。外傷は見られないものの、不審な点も多くどうやら殺人のようだと叡古教授は言います。そして自分が容疑者になるだろうということも。そこで藤太は、叡古教授の知人である新聞記者とともに、高梨教授の行動を探り始めます。

事件はさらに広がりを見せて…

犯人を突き止めたものの、第二、第三の殺人が起こり、何と夏目漱石までもが容疑者としてとらわれることに。そして「藤太」という名前は、訪れた途端に殺人事件に巻き込まれた彼を慮って、本名は出さぬ方が良い、と判断した叡古教授によりつけられたものです。その本名は最後に明らかになるのですが…。

叡古教授の人物像

明治の後半の、日本の空気が良く描かれています。大学という制度や、教授と政治家の関係、彼らがどのような日本を作り上げていきたかったのか。藤太のワトソン的実地調査をもとに、鋭い推理を働かせる叡古教授は、担当である法科だけを極めている訳ではなく、幅広く知識を持ち、現実を正しく捉え、先を見通す力を持っています。まさに叡智の塊といったところです。

大学教授、学生、新聞記者による連続殺人事件を解決するミステリーとして物語は進みます。しかし、最後の章では、藤太の正体が明らかになり、衝撃を受けます。学生時代にこのような経験をし、学ぶことへの礎をしっかりと築くきっかけを与えてくれた叡古教授との出会い。藤太は何と歴史に名を残すほどの人物へと成長したのでした。

まとめ

教科書で目にしたような歴史的人物が、生き生きと動き回り、時には容疑者として扱われたりしていて、驚きとともにワクワクを感じさせてくれます。時代を動かす「頭脳」と「政治力」を持った者との戦いでもあります。日本が西欧諸国と肩を並べていこうとする時代を、慧眼を持って生き抜いた叡古教授。こうした師が、日本を作り上げる人物たちを育て、世に送り出していったのだなと思わせる、壮大な歴史物語であり、ミステリーでもある物語です。

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