『カンパニー』 伊吹有喜 著 新潮文庫
あらすじ
ある日突然、妻と娘が家を出て行ってしまい、呆然とする青柳誠一、47歳。会社では戦力外通告を出され、後援するバレエ団に出向し、舞台を成功させなければ会社に戻る席はない、と言われる。慣れない仕事に四苦八苦する青柳の元には、次から次へと困難が押し寄せてくる。崖っぷちお仕事小説。
突然妻に出て行かれてしまう
青柳がいつものように、帰宅時に駅から妻の悦子へ電話をかけると「迎えには行かない。娘と家を出た。あの家にはもう帰らない。」と言われます。ケンカをしたわけでもなく、浮気をしたわけでもない青柳は混乱します。悦子の不満や問題を解消しようと必死に語りかけますが「あなたって、結局、どこでも傍観者なのね。」そう告げられ、離婚届を送りつけられたのでした。
会社でもリストラ要員に
青柳が勤める有明フード&ファーマシューティカルズは、置き薬を中心とした薬売りから始まり、飲料水や化粧品、製菓会社を買収・吸収合併し、規模を拡大してきた会社です。とはいえ、縁故採用の多い同族経営であり、役員の脇坂も青柳の妻子が出て行ったことを把握しているという、嫌な状況です。
家庭内のことまで上から口を出された上、おまけにバレエ団への出向を持ち出されます。世界的に活躍する男性バレエダンサー、高野悠を招き、社長の娘とともに踊るバレエの公演を成功させろ、と言うのです。成功すれば脇坂の下に、つまり会社の中枢に入ることができますが、失敗した場合は最悪仕事を失うことに。まさに崖っぷちの状況です。
妻や会社から見放された理由
青柳は能力がないわけではありません。しかし、上司からの評価は「言われた仕事を完遂するのには長けている。だけど与えられた仕事をこなすだけの人材は新会社では求められていない」というものでした。つまり、与えられた以上のものに取り組もうとしなかった。悦子が放った「傍観者」と言う言葉と通じるところがあります。
青柳を突き動かすもの
それでも与えられた仕事は決して投げ出さない、真面目にやり抜くことが取り柄の青柳は、バレエ団に出向き、彼らの要望を聞き、対処していきます。そして天才ダンサー、高野とのやりとりの中で、彼のプロとしての考え方や、バレエへの情熱、真摯な思いに触れていきます。それは青柳を傍観者から当事者へ変えていくのに充分な熱量でした。
もう一人の崖っぷち社員
そして、会社から派遣されたもう一人の人物、瀬川由衣。学生時代はバレーボール選手として活躍し、現在は会社と契約するスポーツ選手をサポートするトレーナーをしています。女性マラソン選手を担当していましたが、彼女が妊娠したために、リストラ勧告の部署へと異動することに。そして今回、高野のサポートを命じられます。彼女も崖っぷちです。
由衣に起こる試練
おまけに高野は自分の体を、バレエのプロではない由衣に触らせようとしません。由衣は「それでは運転手を」と、運転手を務めながら、行く先々で高野の体を観察します。忍耐と根性は人一倍持っているのです。由衣はその観察力で高野の不調を見抜きます。高野が踊り抜くための最善の方法を考える由衣ですが…。
まとめ
これまで当然のように、当たり前にやってきたことが、突然壁となって立ちはだかる。そんな困難を迎える登場人物たち。今までと同じようにしていては当然乗り越えることはできないのですが、全く違う人間になれるわけではありません。
自分の能力を信じて、時には視点を変えて、ひたすら良い着地点を目指して進み続けること。そうすることで、その能力を認め、手を差し伸べてくれる人がきっと現れます。そしてオセロが次々とひっくり返っていくように、事態は好転していくのです。
登場人物たちに混じって、自分も肩を叩き合って喜びを分かち合いたい。そんな気分になる、元気をもらえる物語です。
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コメント
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