弁護士といえば
どんなイメージかしら?
そうだなあ。ドラマや小説からは
無罪の人を救い出す正義の味方ってカンジかな。
その弁護士が過去に事件を起こしていたとしたらどう?
ええ〜 それはちょっと依頼したくないかなあ。
これはそんな過去に犯罪を犯した人間が
弁護士となって、かつての友人の殺人容疑を
弁護する立場になるお話なの。
『法廷遊戯』 五十嵐 律人 (著) 講談社
法都大ロースクールの模擬法廷で行われていた「無辜ゲーム」とは
裁判長、告訴者はともに学生。
告訴者は自分の身に降りかかった被害を罪という形で特定した上で、必要な証拠調べを請求し、犯人を特定。審判者が抱いた心証と告訴者のそれが一致すれば、犯人は罰を受けます。
審判者と告訴者の間で齟齬が生じた場合は、告訴者自身が罪を受けることになります。
審判者は結城馨。すでに司法試験に合格しているうえに成績優秀。なぜこの底辺大学に来たのかと周囲がいぶかしむほどの頭脳の持ち主。学生たちは馨に全般の信頼を寄せており、彼が審判者であることは揺るぎません。
セイギが被告者として無辜ゲームを開廷
その馨に無辜ゲームの開廷を申し込んだのは、セイギこと久我清義。馨の足元には及ばずとも、周囲からの期待も厚い、真面目で成績優秀な青年です。そんなセイギがなぜゲームの開廷を依頼したのか。
それは正義の過去を暴露する紙が置かれていたためでした。
セイギは施設出身。そして、16歳の頃、施設長を刺して逮捕される事件を起こしていたのでした。その事件を掲載した記事の切り抜きと、セイギが映った施設での集合写真を印刷した紙が、自習室の机の上に置いてあったのです。その紙は自習室にいた皆の目に止まることになりました。
犯人の特定と美鈴につきまとう謎の男
セイギは周囲には伏せていますが同じ施設で過ごし、今は共に法律を学んでいる織本美鈴に証人になってもらい、誰がこのチラシを置いたのかを調べ始め、同級生の藤方賢二が犯人であることを突き止めます。無辜ゲームでは犯人の有罪を勝ち取りますが、賢二自身もこの情報を自分に与えた人物は誰なのかわからないとのこと。
一方、美鈴は誰かにストーキングされているようだ、とセイギに相談します。美鈴の行動を見張っていた人物は特定できましたが、その人物も誰から依頼されたのかは口を割ろうとせず、セイギと美鈴の過去を知る人物の正体は謎に包まれたままでした。
数年ぶりに訪れた模擬法廷でセイギが目にしたものとは
月日が流れ、セイギは弁護士に。大学院で研究を続けている馨から「久しぶりに無辜ゲームを開催しよう」とメールが入り、セイギはかつて通った大学へと足を向けます。懐かしい模擬法廷の扉を開けると、そこには胸にナイフが刺さり、仰向けに倒れる馨と、衣服と両手を真っ赤に染めた美鈴の姿があったのです。
美鈴の無実を証明すべく奔走するセイギだが
状況証拠100%で美鈴が馨を殺した犯人だとされる中、セイギは美鈴の弁護をすることになります。美鈴は「やっていない」と言いながらも、当時の様子を詳しく話そうとはしません。無罪を主張するのか有罪として減刑を求める方向でいくのか。
検察側との厳しいやりとりに必死に食らいつきながら、独自に調査を進めていくセイギ。大学時代の無辜ゲームの中にこの事件のヒントは隠されていたのです。セイギと美鈴の過去や、事件にまつわる事実が明らかになっていくたびに、罪によって人生が変わっていく人々の姿に胸が締め付けられます。
「無辜」が指す意味
「無辜」とは罪のないこと、またはその人を指す言葉です。無罪だったとしても、それを証明することができなければ、有罪となります。
その仕組みは本当に完璧なのでしょうか。検察の力が絶対的であるこのシステムに問題はないのでしょうか。
何らかの都合で罪を着せられてしまった人が、無罪を証明することは不可能に近いのでしょうか。
まとめ
これらの問題が全て物語の中で描かれています。
どれもが一言では答えの出ない問題ばかりです。法廷という場が人を救う場であってほしい。そう願わずにはいられません。
リーガルミステリーの土台の上に、ヒリヒリとするような人間ドラマが展開される物語。「罪」が決定し「罰」が下されたその後には何があるのか。そんなことが胸に浮かんでくるのです。
有罪か無罪かは裁判官が決めますが…、
多分、冤罪かどうかは神様しか知りません
「法廷遊戯」五十嵐律人(著) 講談社
人間がすることには過ちもあるけれど…。
それを認めることができるのか、許すことができるのか。
そんなことを問われているように感じるわ。
ドキドキする法律ミステリーでありながら
人間ドラマの深さよ…
涙が止まらないぜ(;ω;)
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