こちらはある女性の肌に
針を刺していく刺青師を描く
『刺青』ほか美しい文章で描かれた
7つの作品を収めた短編集よ。
刺青かあ。どんな人物が
入れていくものなんだろう?
腕の良い刺青師は美しい女に
己の魂を注ぎ込んだ作品を
刻み付けたいと考えていたの。
そしてとうとうその対象となる
女性を見つけたの。
もはや芸術なのかな。
針を入れる側と刺される側
それぞれどんな思いでいたんだろうか。
『刺青・秘密』谷崎 潤一郎 (著)新潮文庫
あらすじ
肌に針を刺され痛みにもだえる人間の姿に悦びを感じる刺青師の清吉。
彼の願いは、美女の肌へ己の魂を刺り込む事。
しかし、彼が望む姿の女性は容易に見つからない。
そんな折、清吉のもとへある芸妓の使いであるという娘がやってきた。
この娘が探していた女だと気づいた清吉は、彼女をほんとうの美しい女にするために針を刺していった(「刺青」)。
女装癖を持つ男が映画館で出会ったのはかつての恋人。
再び逢瀬を重ねるようになるが、彼女のもとへ出かけるときは目隠しをされ、さらにその場所がわからないように俥ががくるくるとまわったり、時間をかけて家の中まで連れていかれる。
彼女がどんな場所に住むのかを知りたくなった男は、俥の道のりを自身の足でたどろうとするが(「秘密」)。
己の魂を美しい女の肌に刻む
腕の良い刺青師、清吉は、美しい女に己の魂を注ぎ込み、その背中で生き続けるようなものを彫りたい、と考えています。
しかし彼の目にかなう女はなかなか見つかりません。
ある日、料理屋の前で待つ駕籠の簾のかげから、真っ白な女の素足が出ているのを見かけます。
これぞ女の中の女になる者だと判じた清吉は、駕籠を追いますが見失ってしまいます。
それから五年がたち、知り合いの芸妓の使いの、十六、七の娘がやってきます。
若い娘でありながら、年に似合わぬ凄みのある美しさを持っている様子を見て、五年前に見た女であると清吉は理解します。
そして清吉は素地はあるが女としては未完成の娘の背中に、己の魂を込めて蜘蛛を刻んでいくのです(「刺青」)。
今までの賑やかな雰囲気から逃れ、ひっそりと隠れるように暮らしたいと考え移り住んだ下宿先。
散歩に出た先で女物の古着を見つけ、ふと着てみたくなり購入。
住まいに戻り、着物を着て化粧をする。
慣れてくるとそのまま外で過ごす。
そんな風にして出かけた映画館で昔の恋人と出会います。
相手も女装していても彼だということに気づきます。
そして彼女の家で逢瀬を重ねるのですが、その場所がわからないように徹底的に対処されていて…(「秘密」)。
まとめ
美しく重厚な文章は読者をゆっくりと深いところまで、耽美な世界へと導きます。
作品に漂う濃い闇は、ふと見せる美しい場面と強いコントラストを生み出し、まぶたの奥に焼きつくようです。
明治後期から大正にかけて描かれた作品たちですが、一つも無駄のない、緻密に刻まれた文章は現代でも光を放ち、色あせることがありません。
心の闇までも読むものを引きつける、七つの物語を収めた短編集です。
<こんな人におすすめ>
美の世界を突き詰めていく重厚な文章を読んでみたい
明治から大正にかけての人生観や美への認識が垣間見える物語に興味がある
谷崎 潤一郎のファン
耽美とはまさにこの文章の
ためにある言葉だな!
ひと針ごとに出来上がる
刺青と女が変わっていく様子に
ゾクゾクするぜ!!
闇の中でうっすらと
照らされたような姿が
何とも情緒的ね。はっきりと
見えない部分に人間の本性が
隠されているのかもしれないわね。
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