こちらは自分の名前が
知らぬところで使われている
縫箔屋の謎を描く『折鶴』を
含む四編を収めた短編集よ。
名前が使われていた?
何だか気持ち悪い出来事だな。
ところで縫箔屋ってなんだ?
金箔や銀箔を着物に縫いつけたり
金糸や銀糸を用いて刺繍する
職人ね。ミシンが普及したことで
その数もぐんと減っていたらしいわ。
そういう時代背景もあるのか。
その名前の謎がその時代背景と
どう絡んでくるのか。気になるぜ。
『折鶴』泡坂 妻夫 (著) 創元推理文庫
あらすじ
日本橋で代々縫箔屋を営む田毎の家は、田毎が4代目に当たる。
先代が残してくれたビルのおかげで、仕事は多く入らなくても何とか暮らせている。
行きつけの店に出向くと、女将から他所の女と宿に泊まったでしょう、と言われ、仕事相手からは池袋のデパートで名前を呼び出されていた、と言われる。
誰かが自分の名を使っている?
首をひねる田毎は、あるパーティーで自分の名刺を数枚渡したことを思い出す。
知らぬところで自分の名前が使われる謎
戦後ミシンが登場し、田毎のような手仕事の職人たちは大きな打撃を受けました。
早くて緻密な作業が得意なミシンが普及した結果、職人たちの間で仕事の奪い合いや値崩れが発生。
負担はあっても腕のいい者に、という考えを持つ者は皆無に等しい状態です。
そんな中、田毎が所属する組合のメンバーの叙勲パーティーが都内で開かれ田毎も参加しました。
そこでかつての恋人、鶴子と数十年ぶりに再会。
彼女は着物を扱う会社の社長夫人として忙しく立ち回っていました。
久々の再会に、二人で酒を呑み名刺を渡し、何故か彼女のもとで働く若い女性、三浦潤子を弟子にすることに。
そんな中、池袋のデパートで名前を呼び出されたり、温泉宿の宿帳に名前が記載されていたと身に覚えのないことを周囲から言われ驚き、戸惑う田毎。
誰が、いったい何のために自分の名前を使ったのか。
まとめ
ミシンに仕事を奪われ、安く早く仕上がるものに人々が飛びつき、手仕事の職人たちが廃れていく頃の物語です。
昔気質で細々と縫箔の仕事を続ける田毎。
実直で真面目な田毎が若い頃、一緒になろうとした女性が鶴子でした。
彼女もまた下り坂にあるこの業界で会社を上向きにさせようと必死でした。
二人の再会と田毎の名前が使われた謎、業界の低迷。
時代に飲まれ、起こってしまった悲劇とその陰に沿う愛の形がいつまでも胸に残る物語です。
<こんな人におすすめ>
着物づくりに関わる職人たちの仕事と時代に翻弄される様子を描いた物語に興味がある
男女のちょっとした関わりから事件へとつながっていく状況と心の動きを丁寧に描く話を読んでみたい
泡坂 妻夫のファン
ミステリ仕立てで展開される
業界の衰退と男女の思惑…。
時代のせいなのかはたまた
その道を選んだ本人が間違いなのか…。
真相がわかってから、
登場人物たちの動きやセリフが
ストンと胸に落ちる展開もお見事。
読後の余韻が深く残る物語ね。
本やイラストレビューが気に入っていただけたらポチッとお願いします。