こちらはスナックを営む
63歳のトランスジェンダー女性が
奪われた金を取り戻すべく
元恋人と二人で旅に出るお話よ。
ほほう。トランス女性か。
どうしてまた金を盗られて
しまったんだ?
元恋人がFXで稼ぐという言葉を
信じて老後の資金として貯めていた
一千万を彼に渡そうとしていたのだけど
そのお金をスナックの従業員が
持ち逃げしてしまうの。
従業員かあ。信頼関係も
あったんだろうに。
無事に金を取り戻すことが
できるといいが。
『犬』赤松利市 (著)徳間文庫
あらすじ
大阪の座裏で小さなカウンタースナックを営む桜は63歳のトランスジェンダー。
同じくトランスジェンダーである23歳の沙希を店員として雇っている。
そんなある日、一人の男が客として店に訪れた。
二十年前に桜を棄てた安藤勝。
この男との日々が忘れられず、コツコツと貯めていた一千万円を彼に渡そうとするのだが、あるはずの場所から金はなくなっていた。
消えた金を追う、彼らの旅が始まる。
消えた一千万円を追う旅へ
ディープ・オオサカと呼ばれる座裏でスナック「さくら」を営む桜。
割烹着にお団子頭で「お母さん」と呼ばれる桜は、見た目は女だが戸籍は男。
自分で作った惣菜と、いくつかの泡盛を出し、客をもてなしています。
沙希は完全に見た目が女の、若く美しいトランスジェンダー。
口は悪いけれど沙希目当ての常連客もいます。
そんなある日、店に一人の男が現れます。
昔、桜に女としての喜びを覚えさせた男、安藤でした。
再び体を重ね、かつての感覚を思い出す桜。
そして安藤がFXで稼いで必ず返す、という言葉を信じ、コツコツと貯めてきた老後の資金、一千万円を渡すことに。
しかし、渡すために用意していた金は部屋から消えていたのです。
どうやら沙希が持ち出したようで、彼女の姿も見当たりいません。
沙希のSNSから居場所を探り出し、金を取り戻そうと、桜と安藤は着の身着のままで家を飛び出します。
まとめ
体の衰えと老後の不安。
それは桜の判断力を鈍らせ、自ら首輪をつけ鎖を握ってくれる相手に己の運命を委ねてしまいます。
痛みと苦しみを伴いながら離れられない様子は、主人に忠実な犬のようです。
そこまで強く依存しいている桜を救ったのは沙希との「絆」でした。
軽やかでユーモアのある序盤から、次第に苦しさと痛みが増し本を閉じたくなりますが、ラストには生きていて良かったと感じられる、衝撃と共に深い余韻が残る物語です。
<こんな人におすすめ>
トランスジェンダーが元情夫とともに奪われた金を取り戻そうとする物語に興味がある
疾走感溢れる、暴力と狂気に満ちた物語を読んでみたい
赤松利市のファン
こ、これはすごい。
こんなに苦しいのにラストには
希望が感じられるところがまた
すごい…!!
人を救うのは性別や
年齢を超えた「つながり」
なのかもしれないわね。
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