こちらは官能の深みと
人間の欲望が迎える悲しみを
描く7つの物語を収めた短編集よ。
ほほう。官能の深みねえ。
例えばどんな物語があるんだ?
姫君に恋した狸が女中に
化け、姫の身の回りの
お世話をするのよ。
へええ。なんだかファンタジー
みたいじゃないか。ここから
どんな風に官能の世界へ
誘ってくれるんだろう?
『アルマジロの手:宇能鴻一郎傑作短編集』
宇能 鴻一郎 (著)新潮文庫
あらすじ
淡路島に滞在し、土地の古老から民話を聞き集めていたわたくしは、夜の公園で一人の老人と出会った。
この地には狸の話が多くあるという老人から、その狸の話をねだると、老人は姫君に恋した狸にいついて語りはじめた(「心中狸」)。
不穏な空気がつきまとう「アルマジロの手」、むさぼり喰う快楽に溺れる男を描く「月と鮟鱇男」の他、官能の深みに身を沈めていく姿と生の悲しみが胸に迫る七編の物語。
姫に恋する狸が取った行動とは
宿で夕食をとり酒を飲んだあとふと思いつき、公園から月を見ようと散歩に出かけたわたくし。
小さな四阿で休んでいると、いつからそこにいたのか小柄な老人が立っていました。
土地に伝わる民話を採集していたわたくしは老人に話をねだります。
すると老人は姫君に恋した狸の話をしてくれました。
蜂須賀候の姫に恋した狸は女中の一人を喰い殺し、化けて取って代わります。
姫君は年の頃が十七か八、嫁ぐことなく気軽で優雅な暮らしをしていました。
姫君の御用所へお伴し、用足しの手伝いをする時には、その愛らしさに手に持った懐紙の存在を忘れ、思わず長い舌で嘗めとり綺麗にしてさしあげたのでした。
やがて姫君にも気になる殿方が現れます。
姫君のために、とその殿方を屋敷に連れてきて姫の寝所へ押し込む狸は、自分が姫とつながれない悲しさと、姫の喜びに貢献したという嬉しさがないまぜになっていました。
人間と通じたら死ぬ。
そんな掟を破ってでも姫と一つになりたい。
その想いに達した狸は覚悟を決め、お相手の殿方に化け、姫の寝所へ向かったのですが(「心中狸)」。
まとめ
人間である姫に恋して懸命にお世話をしてきた狸。
恋焦がれる想いと愛しさを胸に、他の男に抱かれる姫と、その相手の男にまで世話をしていきます。
決して一つになることのできない相手への献身ぶりはどこか悲しくもあります。
民話をベースに欲望や悲しみを丹念に折りかさねる「心中狸」のほか、奥底に潜む根本的な欲望とその陰にあるもの哀しさを浮き上がらせる七編の物語です。
<こんな人におすすめ>
官能の深みと人間の欲望が迎える悲しみを描いた物語に興味がある
美しい文体で性と生を感じさせる話を読んでみたい
宇能 鴻一郎のファン
確かに官能的だが…
それを上回る狸の姫への
愛情が何とも切なく悲しいな。
官能や欲望はあるレベルを
超えると破滅への道につながって
しまうものなのかもしれないわね。
『姫君を喰う話―宇能鴻一郎傑作短編集―』のイラストブックレビューはこちらからご覧いただけます。
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