こちらは人間の狡さやうしろめたさ
などといった弱い部分を情緒豊かに
描き出す13編の短編集よ。
ほほう。例えばどんな
話があるんだ?
明るくて小まめに立ち働く
妻にふと黒い感情を抱いたり、
愛人の変化していく様子にモヤモヤ
したり…。
あらら。彼らにどんな背景が
あるのか。どうしてそんな状況に
至ったのか。興味があるな。
『思い出トランプ』向田邦子 (著) 新潮文庫
あらすじ
明るくて細々しく動くが、かわうそのように残忍な部分を持つ妻(「かわうそ」)。
大きな体、細い目の愛人の、垢抜けなく朴訥としたところが気に入っていたのだが(「だらだら坂」)。
少女の頃、わが家に出入りしていた男を電車で見かけ、あの頃を思い出す(「犬小屋」)。
あやまって幼いい息子の指先を切り落としてしまった母親(「大根の月」)。
日々暮らしていく中で、狡さやうしろめたさなどを情緒豊かに描き出す13編。
妻の様子はある動物を連想させる
定年まであと三年というところで脳卒中の発作を起こした宅次。
休職し、家にいると妻の厚子がこまめに動き回り陽気に振る舞う姿が目につきます。
その姿はまるでかわうそのようだ、と宅次は考えます。
友人から一本の電話を受けた後、宅次は三つで死んだ幼い娘に思いを馳せ…(「かわうそ」)。
色が白く、ずどんとした大柄な体に細い目をした庄治の愛人、トミ子。
口も動作も重いトミ子だがかえって気がねなく過ごせるところが気に入っていた庄治。
彼女を囲っているマンションの坂を登るときは、あらゆる思いが胸をよぎるのでした。
ある日、マンションのドアをノックした庄治。
部屋にいる気配はするのにトミ子は出てくる様子がなく…(「だらだら坂」)。
まとめ
思い出したくないものにふたをして生き続ける者、忘れることができずに苦しむ者、ずるさを持ち合わせる者。
日常の中に溶け込んでいる彼ら1人1人が呼吸をし、熱を持って言葉を発し、動き回ります。
色鮮やかな、ときにくすんだ背景の描写が、彼らの姿をいっそう引き立たせるのです。
人間の弱い部分を描きながらも、人間の愛と、とりまく情景の美しさを強く感じさせる物語です。
<こんな人におすすめ>
人間の弱さやずるさ、うしろめたさを描いた物語に興味がある
何気ない日常の中に潜む違和感や黒い感情を描いた話を読んでみたい
向田邦子のファン
まるで感情にまで色が
ついているようだな。
彼らの心の変化と動きが
手に取るように伝わってくるぜ。
昭和という時代背景だけれど
人々の会話や態度、その視線に
感情を動かされる、短いながらも
心に残る短編集ね。
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