こちらは自分の手を介すると
誰も食べてくれないという悩みを
持つ女性を描いた物語よ。
ううん 生きるには困らないけど
地味にHPが減っていくような
悩みだな。
そうなのよね。傷ついた彼女は
グレてしまい更生施設へ入るの。
そこで立ち直ったのだけど
スキー事故で意識を失ってしまうのよ。
えっ そりゃ大変だ!
目覚めたら誰かが彼女の手から
供されたものを食べてくれたり
するのかな?
『木になった亜沙』今村 夏子 (著) 文春文庫
あらすじ
小さなアパートに母と二人で住んでいた亜沙。
友人に、と頑張って手作りしたクッキーも、教室で飼っていた金魚も、給食当番の時でさえ亜沙の手が携わると誰も食べ物を口にしない。
母が入院し叔母夫婦のもとへ、そこからまた山奥の更生施設へ入った亜沙。
施設での暮らしもあと数日となった頃、仲間とスキー場へ向かった彼女は木にぶつかって気を失う。
目覚めた時、亜沙は願いが叶ったことを知る。
奇妙で美しく、どこかもの悲しい物語とエッセイを収めた作品集。
「私の手から食べて欲しい」という切実な願い
幼い頃から、亜沙が手に取ったものは誰も口にしてくれませんでした。
友達も、親も、教室で飼っていた金魚さえも。
母が入院し、祖母が認知症になったため、叔母夫婦のもとへと預けられた亜沙。
少しでも手伝おうと、ていねいに作った料理を叔父はいつも残します。
叔母夫婦に赤ちゃんが生まれ、飲んでくれないだろうと絶望しながら与えたミルクを、赤ちゃんはゴクゴクと飲み干します。
感動した亜沙はまだ飲みたがる赤ちゃんに自らの乳を含ませようとしたところを叔母に見つかります。
素行不良となり更生施設へ入った亜沙は、涙ながらに「誰も食べてくれない、自分の手はそんなに汚いのか」と先生に訴えます。
「逆です。きみの手はきれいすぎる」と言われ一瞬で先生に恋した亜沙は日々のおつとめに励みます。
仲間とスノボをしようと訪れたスキー場で亜沙は転倒し、頭を打ちます。
目覚めた時に、近づいてきたタヌキにあげようとチョコを差し出すもやはり食べてもらえず。
タヌキは木から落ちた実を食べています。
木になろう、木になりたい。
そうして人生を終えた亜沙はその願いが叶ったことを知るのです。
まとめ
自分の手が携わったものは食べてもらえない。
自分の手から、お願いだから食べてほしい。
そんな切実な願いを持って人生を終えた亜沙は姿を変え、その望みを達成し幸せな日々を送るのですが…。
日常と幻想が奇妙に混じり合い、その境目が曖昧になっていきます。
ささやかだけれども切実な願望が叶わない亜沙の深い絶望が、木になった彼女に強く共感し、喜びすらも自分のことのように感じさせます。
形を変えた「人とのつながり」への強い思いを描く作品集です。
<こんな人におすすめ>
切実な願いを、姿形を変え叶えた話に興味がある
現実と非現実の境目が曖昧でありながら、どこか共感を覚える物語を読んでみたい
今村 夏子のファン
想像の斜め上をいく展開!
そしてこの結末…((((;゚Д゚))))
童話のような世界でありながら
どこか胸の奥深くで響くものを
感じる不思議な物語ね。
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