強烈すぎるキャラなのに、愛さずにいられないのは血のせいか。なんとも個性的な母親をめぐる家族の物語。

子どもたちに愛情をそそぎ、家族の身の回りを整える。そんなよくある母親のイメージを覆すような強烈な個性を持つ母親たちを描いた物語を紹介します。世間一般的な常識からずれた母親たちが家族にどのような影響を与えるのでしょうか。変り者の母親に反発部分を持っていても心のどこかで求めてしまう子どもの心理にも注目の物語です。

母と呼ぶな!家事は一切しない。年齢不詳の見た目と歯に衣着せぬ言動。

『少女病』 吉川 トリコ (著) ¥734  ポプラ文庫

母親と呼ばれることを嫌がる変わり者の少女小説家・織子は、父親が全て違う三人の娘たちと一緒に暮らしている。四人の意識に共通するのは「母親のようにはならない」ということ。母親が母親として機能していないちょっと特殊な環境で育った三人の娘たちは、母親に嫌悪や反発を覚えながらも自らの中に、母親と同じく大人になりきれない部分を捨てられずにいるということを自覚しています。織子がこれまで生きてきた人生の中には、今の彼女を作り上げるだけの出来事があり、そして織子がこうはなりたくないと思っていた、自身の母親と同じ部分がやはりあるのでした。認めたくない母親の弱い部分、その母と似た部分を持つ自分。それらを丸ごと受け入れて生きていくことが大人から少女に変わっていくことなのかもしれません。

困った母親だけど愛する気持ちは誰よりも広く普遍的なんです

『タカラモノ』 和田 裕美 (著)  ¥670 双葉文庫

ほのみのママは、惚れた男ができると子どもたちを置いて家を出て行ってしまうこともある困った人。母としては残念な部分もあるけれど、自分に正直にまっすぐに、そして自由に生きるその姿に誰もが魅了されるのです。どんな時にでも怒らずに、わずかなプラスのカケラを探して自分を褒めてくれていたママ。そんな小さな輝くカケラを集めて今のほのみは作られているのです。ほのみが小学生から社会人になるまでの視点で、それぞれの時代ごとに母親の行動や自分とのやりとりを描いていきます。自分がやっていることが悪くないとは思っていないママ。でも自分に嘘をついていないこと、男と家を出て行ってしまったこともあるけれど、娘たちだって大切。ブレない強い気持ちを持ち、愛することに自信を持つ母の言葉は感涙必至です。

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やはり母親は偉大なんだなと、大人になってから気づくこともある

『本屋さんのダイアナ』 柚木 麻子 (著)  ¥680 新潮文庫

大穴と書いて「ダイアナ」と読む少女は、キャバクラで働く若い母親と二人暮らし。そんなダイアナは小学校で彩子と友人になり、彼女の家に招待されます。そこは自分が憧れていたような暮らしそのままの、立派なおうちでした。中学校で進学先が別れた二人は疎遠になっていき、それぞれの人生を送ります。コンプレックスの塊であったダイアナは、脱皮するように変化を遂げていき、それまで優等生としてやってきた彩子は大学進学後から雲行きが怪しくなっていきます。夜の仕事をしていて生活もきちんとしているとは言いがたく、学にも乏しいような印象を与えるダイアナの母親に、ダイアナは嫌気がさしていました。それには理由があったのですが。また彩子の母親も、ダイアナにとっては憧れるような知的で素敵な女性でしたが、彩子にとっては求める部分をもらえなかったというしこりがあります。母親と娘、そして友人たちが本で結ばれ、再びその絆を見つめ直す物語です。

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ここは女の楽園。その頂点に立つのはやはり母親という存在。

『あの家に暮らす四人の女』 三浦 しをん (著) ¥734  中公文庫

相続した遺産を少しずつ消費していく年老いた母・鶴代、父親の行方を知らない刺繍作家の娘・佐知、佐知の友人で毒舌の雪乃、同じく友人だがダメ男に甘い多恵美の、四人の女と、敷地内に長年暮らす謎の老人・山田が、その古い洋館に住んでいます。世間から忘れられたような佇まいの中での暮らしぶり、男運はイマイチな雰囲気の四人の女たちの軽妙で、ちょっとずれてる感がおかしさを生み出しています。そんな彼女たちの頂点に立つ者といえば、やはり母の鶴代です。冷静に考えるとおいおい、あんたそんな勝手な事言って、と突っ込みたくなるような言動が山盛りですが、その飄々とした佇まいに思わずその言い分を受け入れてしまうという。その勝手さ加減は、実は世間の常識なんかに捉われない、自由なものだからこそ、他の女性たちが受け入れ、その館が楽園となる土壌を育くんでいるのかもしれません。

あっけらかんと夫を殺した母の奥に潜んだ感情は

『ママがやった』 井上 荒野(著) ¥759  文春文庫 

小料理屋を営む79歳の母親から電話があり、駆けつけてみると、72歳の父親が死んでいました。母が殺したのだと言います。当の母親は普段と変わりなく子どもたちのためにご飯を作り、食べるように進め、三人の姉弟は母の作ったご飯を食べながら父親の死体を処理するべく相談をはじめます。いい加減で女にだらしなかった父親と自分の関わりを、娘、息子、妻とそれぞれの立場で描いていきます。仕事は続かず、常に女の影があり、家には帰ったり帰って来なかったり。そんな父と長い間、仲良く暮らしているように見えた母。その母を、今頃になって殺意に走らせたものは何だったのでしょうか。家族とは、夫婦とは、愛情とは何なのか。母が父を殺害したのも、子供たちが母を守ろうとしたことも、愛の形の一つであるのかもしれません。しかしそれがどこか歪んでいるのは、父親が与えた妻と子供達に対する愛情の形ゆえなのです。夫の殺害は、母でなく妻でなく、一人の女として起こした唯一の行動だったのではないでしょうか。

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まとめ

思うままに行動し、発言する母親たち。そんな母親に振り回されながら、子供達はどのような思いを胸に抱えているのでしょうか。憎しみ、呆れ、時に尊敬・感心してみたり。それでも心の中でどこか母親を求めてしまうのは心だけではなく本能的な欲求であるのかもしれません。こんな個性的でちょっと困った母親たちから、あなたなら何を得るでしょうか。

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