こちらは優れた嗅覚を持つ
調香師のもとで働く女性が
顧客の変わった依頼を受けたり
調香師が抱える問題に気づいていく
物語よ。
調香師か。いろんな香りが
感じられるというのは
便利なことばかりでも
なさそうだな。
そうなの。調香師の朔は
あらゆる匂いを記憶し忘れることが
ないの。行方不明者が残した所持品から
その行方を探ることもできるわ。
うわお 警察犬みたい…
そんな大量の香りが自分の中に
存在するなんて。彼にとって
香りとはどんな存在なんだろうな。
『透明な夜の香り』千早茜 (著)集英社文庫
あらすじ
勤めていた書店を辞め、無気力な日々を過ごしていた一香は、スーパーの掲示板にあったアルバイト募集の貼り紙に目を止める。
坂の上の森を抜けた洋館で掃除や雑用のアルバイトとして採用された一香。
雇い主である小川朔は、人並み外れた嗅覚を持つ調香師であり、彼の幼馴染の探偵・新城とともに、客が望む様々な「香り」を作り出していた。
あらゆる香りを嗅ぎ分け、記憶し、忘れることがないという朔は、その能力ゆえに深い孤独を抱えることに一香は気づく。
あらゆる香りを作り出す調香師が抱えるものとは
アルバイトの面接に向かった一香を迎えたのは粗雑な雰囲気の新城。
続けて入ってきた朔は短髪でかすかに灰色がかった目を持ち、ゆったりとした深い紺色の声で話します。
その内容は、一香のカバンの中にバラの花が入っていること、さらに彼女がしばらく体を動かしていないことなど、何故そんなことがわかるのかと驚くべきものでした。
朔は調香師をしており、家の中の掃除や食事づくり、事務仕事を手伝って欲しいこと、働く間は身体や髪、衣服を洗うもの、肌に塗るものは彼が調合したものを使ってほしいということを一香に伝えます。
それは変態じゃないのかと友人には心配されますが、一香はここで働くことに決めたのでした。
庭のハーブを使ってお茶を入れたり、食事を作ったり、室内を掃除したり整えたりしていくうちに、体も心も停滞していた一香は少しずつ回復していきます。
調香師である朔のもとには、様々な依頼が持ち込まれます。
亡くなった夫の香りを再現してほしい。
美しくなる香水を。
そして朔の能力は行方不明者の捜索にまで及びます。
そんな朔が抱える深い孤独に気づいた一香ですが…。
まとめ
人物がまとう香りから身につけている化粧品や洗剤の銘柄、さらには体調までわかってしまうという驚異的な嗅覚を持つ朔。
それゆえ多くの植物に囲まれ、人となるべく接しない生活を送っています。
そんな朔のもとで働くことになった一香もまた、胸の中に重く残り続けるものを抱えています。
豊かな自然の香りがもたらすもの、手に入れるべきでない香りがもたらすものとは何か。
時として力にもなり、毒にもなる香りを調合していく朔が一香に用意したある「匂い」とは。
それは一香の眠っていた一部を目覚めさせるものでした。
登場する香りたちが形を持ち、まるで立ちのぼってくるかのように、全身でその匂いを感じることができる物語です。
<こんな人におすすめ>
どんな香りも作れる調香師の元にやってくる風変わりな依頼とは何なのか気になる
人並み外れた嗅覚を持つ男性がどんな風に生きてきたのか興味がある
千早茜のファン
香りってただ楽しむものだと
思っていたけど人によっては
そうでもないものもあるんだな。
いろんな出来事や感情の機微も
すべて香りとともにあるという
ことが感じられる物語ね。
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