冷戦下のベルリンと現代アメリカから浮かび上がる壮大な謎

『隠れ家の女』 ダン・フェスパーマン(著) 集英社文庫

あらすじ

ベルリンの壁が崩壊する前の東ドイツで、CIAの職員として働いていたヘレン。彼女の仕事は、スパイ活動に使われる数件の隠れ家を管理すること。ある日、この隠れ家で意味のわからない会話を耳にします。同じ隠れ家で、別の日にはCIA職員によるレイプを目撃してしまったエレンは、上層部に訴えかけるが逆にクビにされてしまいます。身の危険を感じたエレンはパリへ逃亡をはかるのですが…。

35年後、エレンは死体となって発見される


35年後、アメリカの片田舎で夫と息子とともに暮らしていたエレンは、夫とともに死体となって発見されます。そして、息子のウィラードが二人を撃ち殺した疑いで逮捕されています。

ウィラードの姉・アンナは一人で暮らしていましたが、弟が犯人であることに納得が行かず、探偵のような仕事をしているというヘンリーに真実を探るよう依頼します。ヘンリーもまた、別の依頼人からエレンを見張るように依頼されていたのでした。

物語の構成と重要な鍵


エレンがCIAの職員として働き、逃亡していた時代と、娘のアンナが母の謎を追う二段構えで物語は進んでいきます。なおかつ、エレンが握っていた秘密は隠れ家で聞いた謎の会話と、レイプの証拠である音声。この二つの録音テープがエレンが狙われている理由であり、彼女の命を左右する重要な鍵となります。

当時のエレンに協力した人物たち


エレンには数人の助っ人がいました。年の離れた恋人であり、伝説のスパイとよばれた、同じCIAの人間であるボーコム。彼は何度となくエレンに忠告を出しますが若いエレンには聞き入れることができません。


そして、情報提供者が弱い立場であることを利用して、レイプを繰り返してたCIA職員のギリーを告発するために、エレンに協力し、脱出の手助けをしていた同じCIA職員の二人の女性。彼女たちはCIAらしく慎重に、かつ的確に指示を出し、エレンをフォローしていきます。

母・エレンの過去を知り驚くアンナ


そして現代では、発達障害のある弟が両親を射殺したことは信じられないと、アンナとヘンリーは二人で実家の中を捜索し始めます。

そこで発見したものから、田舎で慎ましく暮らしていたとばかり思っていた母親が、別の名前を持ち、かつてCIAで働いていたことがわかり、アンナは衝撃を受けます。そして、母親がかつての仲間とのやりとりに使っていた私書箱の手紙などから少しずつ過去の事件の概要が明らかになっていきます。

現在と過去との関連とは


過去と現在、当時の二つの謎と現在の出来事との関連、その謎が判明することで、登場人物たちにどのような影響を及ぼすのか。敵は誰なのか、そして味方は?複雑に絡んだ謎がひとつひとつ明かになっていくたびに、驚きと感嘆の声が出てしまいます。

息をもつかせぬ展開の逃走劇と事件の謎


エレンの逃走劇では、スパイらしい洞察力や判断力に感心し、迫りくる追手の無情さやエレンに対して持つ圧倒的な力量の差に焦燥感と緊張感が漂います。当時のCIAでも女性に対してスパイ教育はされたようですが、事務方に配置され、実戦とは程遠い仕事を任されていたエレンは、敵方からはなめられていたようです。


そこを利用して、当時逃げ切り、敵と取引を交わした結果、一度は終焉を迎えたように見えた事件が再度息を吹き返してきたのはなぜなのか。

まとめ


600ページというボリューム。謎に次ぐ謎が降りかかってきますが、読者に飽きさせることのないスピーディーな展開と、スパイたちのクレバーな立ち回り、恐怖を抱えながら必死に頭と体を動かすエレンの姿に、ページをめくる手が止まりません。


CIAで力を持つ人間という、圧倒的な立場の人間との戦い。絶対的権力にひれ伏すことなく知恵と勇気で立ち向かい続けたヘレンと女性たちに、驚きと称賛を感じずにはいられない、そして当時の秘密組織というものが仔細に描かれているという点も興味深い、読みがいのあるミステリーです。

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