『風よ僕らの前髪を』弥生 小夜子 (著)創元推理文庫
こちらは探偵事務所で働いていた
ことがある青年が、伯母から自分の
夫が殺された事件を調べてほしいと
頼まれるの。
ほうほう。つまり彼にとっての
伯父さんてことか。事件に
巻き込まれて亡くなったのか?
朝の散歩中に何者かに殺されたの。
伯母は養子である志史を疑って
いるようなの。
養子って… 一応家族なんだよな?
夫が殺されて腑に落ちるような
そんな関係だったのか?
真相が気になるぜ。
あらすじ
若林悠紀は伯母の立原高子からある事件について調べてほしい、と頼まれた。
高子の夫、恭吾は朝の公園での散歩中、何者かに殺され死亡。
高子は養子である志史を疑っているのだという。
探偵事務所で働いたことのある悠紀は、かつて自分が家庭教師として勉強を教えたこともある志史の周辺を調べはじめる。
彼は義父を殺したのか
大学四年生の志史は、立原夫婦の娘・美奈子の最初の夫との間に生まれた子供で、夫婦にとっては孫にあたる存在。
美奈子が再婚相手との間に子供が生まれたことで志史は立原家の養子となります。
必要なものは与えられていたものの、借金などを繰り返した実の父と似ることがないようにと始終監視され、趣味も認めてもらえず厳しく育てられてきた志史。
だからこそ恭吾を恨んでいたのでは、と話す高子。
ところが、志史の当日の行動を探ってみると、その日はある女性と一緒に過ごしており、アリバイは成立しています。
高子に志史の中学時代の卒業アルバムを見せてもらい、クラスメイトに連絡をして話を聞くと、当時志史と仲良くしていたという、小暮理都という男子生徒の存在が浮上。
人を寄せ付けない志史が心を許した理都とは一体何者なのか。
数年前に養父が浴室で酔って溺死、実の母は自宅の火災で重傷、助けようとした理都もひどい火傷を負ったといいます。
中学卒業後は何の接触もないように見える志史と理都ですが…。
そんな中、調査を進める悠紀に、志史の実父、斉木明が転落死したという知らせが入り…。
まとめ
人には言えないような苦しい環境で生きてきた二人の少年。
その痛みと絶望を知る仲間として強い結びつきが生まれます。
二人は学生たちの輪の中では異質な落ち着きと美しさを持っていましたが、その陰には想像もつかないほどの闇が広がっていたのです。
彼らを調べる悠紀もまた癒えることのない傷を抱えている一人。
志史たちを調べることで、再度自分自身に起こった過去の出来事へと向き合っていきます。
物語全体は美しい文章で綴られ、まさに耽美という言葉がしっくりとくる世界観です。
文中に学生時代の彼らが詠んだ短歌が登場するのですが、これが美しく切なく、悲しみをたたえつつ、さあっと風が吹くかのような清涼感があります。
少年たちの罪と罰、そして彼らが望んだ幸福の姿を描く、読後に深い余韻を残す珠玉のミステリーです。
<こんな人におすすめ>
義父を殺害した疑いのある従弟を調査していくミステリに興味がある
友情と愛と苦しみ、そして絶望を描く物語を読んでみたい
弥生 小夜子のファン
うわあ…。これミステリー、なんだよな?
声を失ってしまうような
痛くて切なくて美しい物語だ。
友情と愛と、そして苦しみが
耽美な文章で描かれた
深い余韻が残る物語ね。
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