こちらは父親を亡くし無気力に
なっていた女子大生の藤子が父の友人である
写真家の全さんと出会い、恋に落ちる話よ。
父親の友人?ってことは相当
歳が離れている相手だよなあ。
全さんは父親よりも年上なの。
レンズのようなひんやりとした目と
人なつこい笑顔を見せる彼は
父親の死で凍りついていた藤子の心を
溶かしていくの。
ふうむ。藤子の心境はなんとなく
わかるけど全さんはいったい
どんなつもりで藤子と接して
いたんだろう。
『神様の暇つぶし』千早 茜 (著)文春文庫
あらすじ
母親は家を出て行き、父親と二人で暮らしていた二十歳の藤子。
その父親を事故で亡くし気力を失い動けなくなっていたある日、父よりも年上の写真家の男と出会う。
光と影でできているような男・全さんはそのひんやりとした目と人を油断させるような笑顔で、藤子の止まっていた時間を動かした。
そして最後の写真集にその姿が焼き付けられる。
父親よりも年上の写真家の男に惹かれる藤子
四十九日を過ぎても大学に行く気力が起きない藤子。
父が亡くなり一人ぼっちになってしまった家に、ある晩一人の男が父をたずねてやってきます。
怪我をしている男を手当てし、見送る時に名前を思い出します。
廣瀬写真館の不良息子と呼ばれた全さんは、若い頃には悪い噂がたくさんあった人物。
有名な写真家になりましたが、親とは不仲なままで写真館も継ぐことなく店主が亡くなったときに閉店。
藤子の父は全さんと友人関係にあることを誇りに思っていたようです。
翌日、蛇口が壊れ水が止まらず慌てているところへ全さんがやってきます。
ホームセンターへ商品を買いにいくついでに回転寿司へ。
座っているだけで食べ物が運ばれてくる安心感は、まるで父の愛情のようだと感じます。
何も考えずにただ与えられるものを呑み込んでいたけれど、その父はもういない。
これからは自分で選びとっていかなければならない。
ふいに襲ってくる孤独と喪失感に身動きが取れなくなる藤子を「メシ食うか」とあちこち連れ出す全さん。
自分が男の人が苦手であること、また全さんが女性にどう思われているかなどポツポツと互いの話をします。
久々に大学へ行った藤子は同級生の美男子、里見と会話を交わすようになります。
人を寄せ付けない空気をまとう彼は、交わしてみればまっすぐな言葉で藤子は他の男性と違い楽な気持ちになるのを感じます。
全さんに捨てられた女性がやってきて一悶着あった後、父親が死んだことを母親は知っているのか、と尋ねられ、なぜか藤子が中一の頃に他の男を追って出て行ってから一度も会っていない母親のもとをたずねることに。
幸せそうな現在の母の姿を見てさらに傷つく藤子。
その後、ある出来事をきっかけに藤子と全さんは結ばれ、彼の手により藤子の姿がカメラに収められます。
そして全さんは姿を消し…。
まとめ
年の離れた大学生とカメラマンの一夏の恋。
恋と呼ぶにはあまりにも熱く強い炎で互いを焼き尽くすかのような激しいものでした。
そんな中でもどこかひんやりとしたレンズの目でもって藤子の躍動する「いのち」そのものを切り取ろうとする全さんの生への執念のようなものが伝わってきます。
美しい文章で男女の愛と熱を描き出す、読後に深い余韻が残る物語です。
<こんな人におすすめ>
父親よりも年上の写真家の男と恋に落ちる女子大学生の話に興味がある
魂がぶつかり合うような恋を描いた話を読んでみたい
千早 茜のファン
食、汗、涙。そこかしこに
鮮やかな命が存在している。
そんなイメージを受けるな。
そうした命のきらめきを
カメラに収め続けた全さんの
思いと藤子の相手を求める愛情が
交錯していく物語ね。
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