
こちらは吉原の遊女屋の
ひとり娘として生まれたおゆうが
激動の時代に生きた人生を
描く物語よ。

遊女屋の娘かあ。結構
裕福な暮らしだったんじゃ
ないのか?

遊女の苦労して稼いだ金で
暮らしている自分に
身の置き所のない思いをおゆうは
抱えていたの。でもある旅役者と
出会ったことでおゆうの人生は
大きく変わっていくのよ。

なるほどねえ。確かに遊女の
苦労も目にしていただろうからなあ。
おゆうの人生を変えるような
役者ってのはどんな奴なのかな。
『恋紅』皆川博子 (著)春陽文庫
あらすじ
吉原の遊女屋である笹屋の一人娘として生まれ、遊女たちに囲まれ大切に育てられてきたおゆうは、吉原に馴染めずにいる自分を感じていました。
ある日、両国で粗末な芝居小屋に迷い込んだゆうに、旅役者はやさしく接してくれました。
そんな幼い日の出来事から五年後、再びこの役者と再会したおゆうの人生は大きく変わり始めます。
遊女屋の娘が出会った安らげる場所
客をあしらったり、遊女同士の小競り合いを見たり、年の近い禿にこっそりと菓子をあげたり。
笹屋の一人娘であるおゆうは、遊女屋の赤裸々な裏側を目にしながら、母親からは厳しく、そして父親からは大切に育てられていましたが、遊女たちが稼ぐために必死に客を取り、時に遊女同士や客と衝突したり病気をしたりと苦労している姿を目にして、そんな彼女たちの稼ぎで自分は不自由のない暮らしをしていることに罪悪感を覚えていました。
かつて笹屋の花魁だった薄雲に会いにいったおゆうは自分を忘れたかのような冷たい彼女の態度と、近くから聞こえてくる客と妓が交わす声に驚き、その場を逃げ出します。
雨に降られ、見世物小屋をのぞき裏へ回ってみるとそこは役者たちの楽屋で、大根を煮ているあたたかな湯気と香りが漂っていました。
こう、入ってあたりな、と役者に声をかけられ、おゆうは火にあたり大根を食べたのでした。
その時の出来事を大切に胸に抱いていたおゆうは、五年後、再びこのときの役者と出会います。
客としておひねりを役者に渡すことを教えられたおゆうは、紅筆で細く『かりたく ささや ゆう』と祝儀の包みのすみにしたため、その役者である福之助に手渡します。
相手にされるわけがないと思っていたところ、何とおゆうの不在中に福之助がおゆうをたずねて笹屋へやってきたのです。
驚き、胸が高鳴るおゆうですが…。
まとめ
遊女の経営者の娘で、その身分を申し訳なく感じているおゆうは、吉原には自分の居場所がないと思っています。
旅一座は誰がいてもどんな事情でもそこに居させてくれる大らかさがあり、おゆうの心の拠り所となります。
江戸から明治への移行期の遊女達の様子や身分の違いを乗り越え、惚れた男を支え続ける一人の女性の生き様を描いた、心の奥深くに長い余韻を残す物語です。
<こんな人におすすめ>
吉原の遊女屋の娘として生まれたことに罪悪感を持つ女性を描く物語に興味がある
自分の居場所を見つけられずにいた少女が役者に惚れて自分の生きる道を見出していく話を読んでみたい
皆川博子のファン


おゆうの苦しみを「恵まれている」と
感じる連中も多いんだろうが…。
どこまでも自分の心に素直で
純粋がゆえに抱いた悩みや葛藤
だったんだろうな。

江戸が終わる頃の遊女たちの
様子や旅役者たちの興行の
様子、世間での受け入れられ方など
生活文化の面でも興味深く
読める物語ね。
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