こちらは「私はチクワに殺されます」
という言葉を残した一人の男性の
死をめぐるサスペンスミステリーよ。
チクワ?何それ?
毒でも入ってるわけ?
チクワの穴から覗くとその人物が
死ぬ姿が見えるということを
発見した男性が危険を感じて
チクワを回収しようとするの。
チクワを回収って…。
世の中にどんだけチクワが
流通してると思ってるんだ。
どうやってこの話展開していくの?
『私はチクワに殺されます』五条 紀夫 (著)双葉文庫
あらすじ
六月末日、練馬区郊外の借家で遺体が発見された。
男は首を吊って死んでおり、室内にはおびただしい数のチクワが散乱していた。
男のジャンパーのポケットには遺書と呼ぶには長すぎる手記が捻じりこまれており、それは「私はチクワに殺されます」という一文で始まっていた。
チクワの穴から見えたものは
都内でルート配送の仕事をしている五十代の男性は、娘が社会人となり家を出てから妻と二人でつましい生活を送っていました。
ある日、仕事先で「余ったから」とちくわをもらいます。
コンビニの駐車場にトラックをとめ、チクワを食べていると脇の道でゴンドラ付きのアーム車に乗り、やる気のない様子で仕事をしている若者の姿が。
何気なくチクワの穴から彼を見てみると、そこには若者の変わり果てた恐ろしい姿が見えました。
驚いてチクワから目をそらすとのぞく前と何ら変わりはなく、気のせいかと思っていると男の悲鳴が聞こえ、目の前にはチクワの穴からのぞいたものと同じ、若者の無残に変わり果てた姿が…。
偶然やあえて実行したりする検証を重ね、どうやらチクワの穴をのぞくとその先にいる相手が壮絶な死を迎えるという事実に辿りつきます。
他の人間がこの事実を知ったら危険だ、と男はスーパーなどでチクワを買い占めたりしますが、却って店舗へ納品されるチクワの数が増える事態に。
妻に頼み倒してなけなしの貯金をおろしてもらいチクワに投じる男。
仕事をクビになり、妻のパート先であるスーパーでも問題行動を起こします。
妻もパートをやめることになり、収入が途絶え追いつめられていった男がチクワの穴をのぞいてみると…。
まとめ
チクワに殺された男による手記が第一章で描かれ、この手記を目にしたあるライターが男の娘にインタビューを行う第二章、そして結末を描く第三章という構成です。
チクワの穴から人の死に姿が見えるという何とも驚きの設定に、全能感を持ちながらも次第に狂気に走る男の姿が恐ろしく、しかしながらその文章は落ち着いたユーモアが所どころ挟まれており、「うまいな〜」という印象です。
第二章は一転し、第三者がこの手記に疑問を持ち、男の娘に手記の内容についてインタビューを行い、自身の推理を進めていきます。
なるほど、視点が変わればそんな解釈ができるのか!と感心しつつ、これはただではすまないぞと思わせ第三章へ。
いよいよ一連の出来事が明らかになるわけですが…。
二転三転する視点の変化にクラクラ。
予測のつかない展開にドキドキしつつ、ページをめくる手が止まらなくなる前代未聞のチクワ・サスペンスです。
<こんな人におすすめ>
チクワの穴から人の死が見えることを知った男の悲劇を描く物語に興味がある
チクワが呼んだ悲劇とその真相を探るサスペンスミステリーを読んでみたい
五条 紀夫のファン
ええっ!?そうなるのか!!
というと…。構成もお見事!!
視点が変わるとここまで
事実が変わるものなのかという
驚きが隠せない、一気読み必至の
サスペンスミステリーね。
本やイラストレビューが気に入っていただけたらポチッとお願いします。