納豆でつながるアジアの歴史と文化

『謎のアジア納豆―そして帰ってきた〈日本納豆〉』

高野 秀行 (著) 新潮文庫

あらすじ

ミャンマーの奥地で納豆卵かけご飯に遭遇。タイ、ミャンマー、ネパール、インド、中国、ブータン、ラオスなど、アジアの広い範囲に渡り、納豆は存在している。それも、日本納豆とは違って乾いた煎餅のようなものであったり、同じように生で糸を引くもにであったり、形状も、調理方法や食べ方も様々だ。このアジア広域に存在する「アジア納豆」から民族の歴史や文化、文明論までに行きつく。未知の納豆ワールドへの道が今開く。

タイ北部での納豆は「トナオ」

冒険家、そしてノンフィクション作家である著者が納豆の謎に迫ります。

妻と愛犬マドと共にやってきたのはタイ北部の中心地であるチェンマイ。ミャンマー最大の少数民族であるシャン族の店で納豆が出されます。納豆はシャン語では「トナオ」。まるで日本の「ナットウ」をひっくり返したかのようでびっくりします。

トナオの食べ方と種類

シャンの納豆、つまりトナオは薄焼きせんべいのような形をしており、火に炙ったり、軽く揚げて塩を振って食べます。大豆せんべいですね。大豆の香ばしさが漂ってくるようで、思わず唾をのみこんでしまいます。ビールのつまみに合いそう…。

シャンのトナオには3種類あります。
①トナオ・ケップ  せんべい状の納豆。
②トナオ・サ    糸引き状の納豆。日本の形状と同じ。
③トナオ・ウ    ブロック状の納豆。

①は焼いたり揚げたりして食べる他は、砕いて煮物やタレに入れたりと調味料として使うこともできます。②は、油や香菜などを入れて食べ、③は主に調味料として、削って使うのだそうです。納豆の旨味が調味料として活躍する、いわゆる料理の「味の素」なのだそう。日本においての味噌や醤油にも似た部分あるのかもしれません。

トナオの作り方

トナオ作りをしているお宅へ。大豆を茹で、穀物などを入れるプラスチックの袋へ茹で上がった大豆を入れて二日放置。おそらく袋に納豆菌がついていて、発酵するのでは、とのこと。機械で平べったく伸ばし、天日干しして完成。

こうしたシャン族のトナオからはじまり、ミャンマーのチェントゥン、タウンジー、ミッチーナ、ネパールのパッタリ、中国の湖南省などの各地を訪れ、納豆を食し、作り方を見たり学んだりしていきます。

手前味噌ならぬ手前納豆にチャレンジ

手前味噌のように自分たちで納豆を作る人々の姿をみて、自分たちで納豆を作ってみようとチャレンジ。シダ、ヨモギ、ススキ、そして比較対象のためにワラも使い納豆作り実験を行います。

著者も文中で述べていますが、日本人は納豆と言えばワラだ、と思っていて、それ以外考えられないのです。アジアではそこらへにある葉を使って納豆を作っているところも多くあります。そして、わら以外にも納豆菌は存在しており、納豆を作ることは可能なのです。もちろん納豆作りに向かない葉もあります。この辺りの失敗もユーモアある筆致で描かれています。

日本の納豆についても取材

日本における納豆発祥のルーツを求めて東北へ向かい、取材をしています。訪れた秋田県では、お正月に納豆汁を食すのだとか。そしてお雑煮は食べない…ってホントですか!?

納豆が作られる仕組み、納豆がいつ頃できてどのように伝わり、どのように変化していったのか。発酵や環境など納豆そのものの科学的な調査・分析から、その土地の文化や暮らし、民族の歴史まで、納豆を知るための取材は壮大な広がりを見せてくれます。

納豆はアジアの心のふるさとだ

面白いのは、日本の納豆アジアの各地に持参すると、現地の人が「トナオと同じだ!」と言うこと。味は違っているのに、大豆が発酵した食物というのは、それを食す人々を包み込む懐の深さがあるようです。

アジア納豆が存在する地域は海側よりは山側の場所が多く、奥地へ行くほど静かで微笑みをたたえているような、日本人と似た気質の人々が多くいて、そんな場所でアジア納豆が食べられているということに不思議と愛着を感じてしまいます。
納豆好きな人々は皆穏やかでいい人なんじゃ!?そんな思い込みすら感じてしまうほど。

まとめ

とにかく文章が上手く、納豆の謎神秘さ、そしてアジアの奥地と納豆との関係など、ユーモアを交え、グイグイと引き込みながら読ませてくれます。『夏休みの自由研究のような』と著者はのべていますが、実に壮大なロマンを感じるノンフィクションです。納豆からアジアの文化と歴史を知り、まだなお謎の部分を残す神秘的な納豆。納豆への認識が変わる一冊です。

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