こちらは本の世界を巡って、
人との会話や自分の記憶から
言葉の意味や文章などがつながり、
広がりを感じさせる物語よ。
本を読んでいると「あ、あれと同じ」
とか「前に読んだやつの意味はこうだったのか」
って感じる時あるよな。
そうね。そんな発見もあるし
ふと感じた言葉に対する疑問を
調べるうちにまた新たな事実を
発見したり、ということも。
確かにそれはつながり、広がる世界だな。
長く読まれている作品ならば
新たな楽しみ方が発見できそうだ。
『雪月花』北村 薫 (著)新潮文庫
あらすじ
本の世界には、実に様々な驚きと発見がある。
ホームズの相棒、ワトソンの、知られざるミドルネーム。
誰もが知っていた句の本当の作者。戦前の文学の会話文に出ていた「何ひと」の意味とは。
出会った人から、はたまた自分の頭の奥に眠っていた記憶から、言葉や文章はつながり、広がりを見せ、やがて目の前に見事な着地を見せたりする。
本を愛する著者の喜びや楽しみが存分に詰まった「私小説」。
本にまつわる謎が広がりつながっていく
中村幸一氏の『ありふれた教授の毎日』の中で、氏が滞在したニュージーランドでヘイミッシュという名の人物に出会い、それ以降、この名を持つ人に会ったことがない、とゼミで話します。
すると学生が、シャーロック・ホームズのワトソン博士のミドルネームがヘイミッシュだと教えてくれます。
これを読んだ著者はいい知識を得たとばかり、何人かに披露していました。
ところが岩波書店の「図書」に掲載されたシャーロックホームズ作品内の謎と、ホームズ作品を愛する作家の回答を見ると、そこから新たな真実が…。
また『雪の日や あれも人の子 樽拾い』という、誰でも知っているこの句の作者を、読者はご存知であろうか』という一文で始まる山田風太郎の作品の冒頭部分を目にした著者。
この作品が書かれた時代、その頃の流行語、そして落語にまで思索を広げます。
一文の後、句の作者についての解説が続き、お侍がお駕の内から雪の中で樽を拾う少年の姿を見て詠んだとされています。
各社から出されている俳句集や川柳集を確認していたところ、作者である信友についての表記が異なっていることに気づきます。
まとめ
小説の登場人物名、俳句、落語、詩、はたまた作家の対談記事まで一つの事実がまた次の謎につながっていく、果てしなくも思える言葉の旅。
ところが編集者や記念館のスタッフなど頼りになる面々の力を借り、着地した地点が自分の目の前だったりして、長い時を経た言葉も突きつめてみると自分に近しいものに感じる不思議さを体験できます。
ものごとが広がりつながるセレンディピティの喜びを楽しめる「私小説」です。
<こんな人におすすめ>
ホームズの相棒、ワトソンのミドルネームの秘密について描かれた物語に興味がある
本から本へと情報が広がりやがて繋がっていく話を読んでみたい
北村 薫のファン
へえええ!!こんなところに
着地するとは!!
これだから本はやめられないよなあ。
セレンディピティの喜びを
ミステリ要素を含みつつ
伝えてくれる私小説ね。
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