こちらはある喫茶店に通う
小学生の女の子とお店の
お客さんたちの物語よ。
小学生が喫茶店に通うの?
両親が働いていたので
学童代わりに利用していたの。
いろんな大人のお客さんたちが
嘘や本当のことを口にするわ。
小学生の女の子が大人の世界を
垣間見るってことかな。
さてさて大人たちはどんな
話をしているのか…。
『樽とタタン』中島 京子 (著)新潮文庫
あらすじ
今から三十年以上前、小学生だったわたしは学校帰りに毎日坂の下の喫茶店に通っていた。
店の隅にある赤い樽が気に入っていた私を、常連客の小説家が樽といっしょだから「タタン」と名付けてくれた。
店にはこの小説家のほかに歌舞伎役者の卵や謎の生物学者、無口な学生などクセの強い客がやってくる。
学校が苦手な少女は、ヘンテコな大人たちの本当や嘘を耳にする。
不思議な空気と時間が漂う、温かくてどこか懐かしい喫茶店の物語。
樽がお気に入りの少女とちょっと変わった大人たち
両親が共働きだったために、保育所の代わりとして放課後喫茶店へと通っていたわたし。
ドリンクを1つたのみ、体が小さかった頃は樽の中で、大きくなってからはマスターが樽を改造しいて作ってくれた椅子に座り、大人しく本を読んだりして過ごします。
ある日、ウエーブのかかった短い髪にサングラスをかけた若くはない女性が店に現れます。
やがて常連客である白髪白ひげの老作家が店に入ってくると、女性客は彼をじーっと見つめました。
そして「違うわ」とつぶやきます。
気になった作家は、タバコを吸いに外へ出た彼女を追いかけ、タタンもまたいっしょに出ます。
ブリキのバケツに腰掛け、見知らぬ女性を気遣う、いつもとちょっと違う様子の作家を眺めます。
女性は未来からやってきたのだが、何をするべきなのかを忘れてしまい、苦しいのだ、とタタンに告げるのですが…。
また歌舞伎役者の卵、トミーは毎回違う女性を連れているような男。
しかし、今回トミーが連れていた女性はこれまでとは少し様子が異なるようで。
トミーをずっと支援している神主は芝居に魂が入っていない、女にうつつを抜かしている場合ではない、とトミーを叱りとばします。
しかしトミーのほうもかなり女に入れあげている素振り。
怒った神主は店から出ていってしまいます。
しかし、女の夫だという男が店に現れて…。
まとめ
大人たちは小学生であるタタンに対して、様々な「本当」や「嘘」を語ります。
肩の力が抜けていたり、子供の前だからといって妙に自分を大きく見せようとしたりせずに、自然に会話しているようです。
子供の頃、大人たちの中に入って話を聞いていると、わかる部分とわからない部分があって、わからない部分は「ひょっとしてこういうことなのかな」と想像していたことを思い出します。
理解できない大人の痛みを何となく覚えていて、大人になって「そういうことだったのか」と理解できたような、懐かしさと温かさに満ちた物語です。
<こんな人におすすめ>
ちょっと変わった客が集まる喫茶店を描いた物語を読んでみたい
学校が苦手で友達もいない少女が大人の中で過ごす時間を描く話に興味がある
中島 京子のファン
なんだか微笑ましいなあ
大人たちがちゃんとして
いないところもいいね。
どこか懐かしくて心が温まる
物語ね。今よりも大らかな
大人や世の中の姿が印象的ね。
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