人の命を奪ってはいけないわよね。
そりゃ当たり前だろ。
人をいじめて死に追いやった人間が
反省もせずに、また同じいじめを
楽しんで繰り返しているのを知ったらどうする?
だからと言って殺すのは
良くないんじゃないかな?やっぱり。
追い詰められて自殺してしまった人間が
家族にいたとしたらどうかしら。
こちらはそんな状況を描いた物語よ。
『罪人が祈るとき』 小林由香(著) 双葉文庫
あらすじ
高校一年の時田祥平が住む街では、三年連続で同じ日に自殺者が出たために「十一月六日の呪い」と噂されていた。いじめに遭っていた祥平を、「ペニー」と名乗るピエロが助けてくれた。
自分をいじめる相手を殺すつもりだと祥平が告げると、ペニーは協力してくれると言うのだが…。
高校でいじめを受けていた祥平
祥平は学校でいじめに遭っていました。お金を要求され、暴力を受け、身も心もボロボロ。母は祥平が小学生の頃に家を出て行き、父は恋人のところへ入り浸っており、父の恋人は祥平の母にはなれない、と言い切ります。
誰からも必要とされていない人間。自分のことをそう思い込んでいた祥平。それまで私立の中高一貫校に通っていましたが、父親と同じ高校に通いたくないという思いから、公立の高校に進学します。そこから、いじめが始まったのです。
いじめにより息子を亡くした風見
一方、三年前、息子の茂明がいじめの苦悩により自殺、その後を追うように妻が自殺してしまった風見。何とか会社に通いつつも、息子の苦しみに気づかなかった自分、妻をも救えなかった自分に対して自責の念に常に駆られており、心身ともに不調をきたしていました。
そんな中「ライフセーブの集い」というサイトで知り合った、現在いじめを受けている「ハギノ」という若者と会う機会を得た風見。彼女から話を聞くうちに、茂明をいたぶっていた本当の犯人の姿が浮かんできたのでした。
息子をいじめていた人物を探る風見
茂明を亡くした後、学校に尋ねても「いじめの事実はなかった」と対応されず、妻と二人で同級生の家をまわり、いじめはなかったかを聞いてまわりました。妻一人で聞いたときに「いじめはあった」と答えがクラスメイトが何人かいたのですが、数日後には皆口を揃えて「勘違いだった」と意見を翻したのです。茂明が遺したノートには、いじめた人物の名前が書いてありましたが、それは血で判読がつかない状態でした。
ハギノから聞いたいじめの実態は背筋が冷たくなるような内容で、本人のみならずその周囲の家族にまで被害を広げていくものでした。生徒だけが見ることのできる掲示板が作られ、そこで誰かの名前が上がるとその人物がターゲットとなり、いじめを受ける。大人が探ろうとすると途端にページを消すという狡猾さを持ち合わせています。
ある夜、ハギノから「助けて」というメールを受け取った風見が駆けつけると、そこにはいじめの首謀者がおり、風見を痛めつけ、さらに茂明をいたぶった時の動画を見せつけたのでした…。
祥平をいじめていた竜二の死
ペニーと連絡がつかず心配していた祥平に、あるニュースが飛び込んできます。祥平をいじめていた竜二が電車のホームから落ちて死んだ、というのです。ペニーがやったんだ!と心配する祥平。ペニーと連絡を取ろうとします。しかし警察も彼の正体を知り追い詰めようとしていたのでした。
「人の命を奪ってはいけない」
いじめに遭っている者、いじめに遭い家族を喪ってしまった者。どんなことがあっても「人の命を奪ってはいけない」と言われています。茂明をいじめていた者たちも、決して恵まれた環境で育ったとは言い難く、風見も彼らが反省しているのならばそれでいい、と考えたこともあったようです。
しかし、そのいじめの手法はより高度化され、痛みや苦しみを持つものを増やし続けていること。本人たちにとってはその行為が楽しみにしか見えないこと。人の「生きていること」を軽々しく扱っているといった理由から、彼らを殺すことを決意します。自身が息子を喪った悲しみを知った上で、人の子供に手をかけるのです。
風見を裁ける人間は誰なのか
法廷の場で、「殺人は愚かな行為です。我々はそれを許さないし、許してはならないと思っています」と発言した検察官に対し、
「私を裁けるのは検察官でも、裁判官でもありません。もしも、私を裁ける人間がいるとしたら、それはいじめによって子どもを亡くした遺族だけです」
と放った言葉が胸に刺さります。彼の殺戮にいたるまでの葛藤やせめぎ合い。そして関わってきた人たちへの思いやり。それはいじめに遭った当人と、それにより子どもを亡くした遺族にしか理解できないものなのかもしれません。でも風見の行為は、決して自己満足のためだけではなく、これから生きる人たちのことを思ってのことだったのではないでしょうか。
まとめ
人を殺してはいけない。
家族を殺されても、殺した人間が楽しそうに笑っていてもそんな風に言えるのでしょうか?息子を亡くした風見が祥平とのやりとりでできた繋がりには、復讐というよりは、転覆しそうな船の上で必死に手を繋ぎ会うような、そんな切実さを感じます。家族として手を差し出したかった、繋いで欲しかった、苦しい場所から引き上げたかった風見と、差し出される手を求めていた祥平。互いの思いが彼らを引寄せあったのではないでしょうか。
家族を思う心、いじめに対する社会や、それを眺める周囲の生徒たちの心理状態など、様々な状況が描かれています。それは「いじめ」という行為から発生する痛みは想像を超えるほど大きく広がっていくということを読者に教えてくれます。辛い内容ではありますが、最後には涙が止まらなくなる、感動の物語です。
むうう 確かにこのいじめはひどい。
やはり殺すのは良くないと思うけれど
自分が同じ立場になったらどうなるかわからないな。
そうよね。ニュースなどで伝わってくる
いじめなどの事件の内容はほんの一部でしか
ないのだということがわかるわ。
いじめについていろいろなことを考えさせられる
物語ね。
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