『孤虫症』 真梨幸子(著) 講談社文庫
あらすじ
月曜日タクヤ二十五歳、水曜日マサト二十二歳、金曜日ミノル十八歳。主婦・麻美は週に三度、他の男とセックスすることを習慣としている。ある日、ミノルの母親だという中年女が麻美の元へやってきて、ミノルが死んだのはお前のせいだと責め立てた。麻美と身体の関係を持った男たちが次々と不審な死を遂げていたのだ。そして麻美自身にも身体の変化が現れる。
主婦・麻美の日常
夫は電気会社に勤め、娘は中学受験を控えた小学六年生。週に四日、パートをしているごく平凡な主婦、麻美。妹が結婚を機に引っ越すこととなった折に、住んでいたアパートをそのまま借り続けてもらうことにして、その部屋で男たちと会っていました。
麻美はセックス依存症であるのかもしれませんが、どこか冷めた目つきで自分と男の行為を見つめるその姿に闇を感じます。行為を行ったところで大きな喜びや爽快感を得る訳ではないのに何故そうするのでしょうか。
寄生虫が体を蝕む恐怖に怯える
浮気相手の一人、ミノルの母親から責められたことで、自分と肉体関係を持った男たちが不審な死を遂げていることを知った麻美。自分自身にも腹痛や痒みなどの症状が現れますが、病院に行っても異常がないと診断されます。図書館で「家庭の医学」を読み、ひょっとして寄生虫なのでは…と考えます。
娘が勉強合宿に出かけて行き、静かになった部屋の中からは何かがカリカリと引っ掻くような音が聞こえてきます。麻美にとってその音は、不安を膨らませていく効果がありました。そして治らない痒みにのたうちまわるのです。
自身では無自覚だったストレスが、身体の異常につながっていったのでは。反抗的な娘の態度、何も気にしていないかのような夫との会話。近所の人からの目線。ほんの少しの違和感が、体に蓄積していってしまったのかもしれません。
麻美の家庭を襲った不幸
合宿所から娘が行方不明との連絡が入り、出かけていった夫。合宿中に突然生理が始まってしまった娘は、男子にからかわれて合宿所を飛び出し、林の中で足を滑らせ、切り株に頭を打ち付け、命を落としてしまったのです。ショックを抱えた夫が家に帰ると、妻はいなくなっていました。忽然と姿を消してしまったのです。
物語はここからです
ここから怒涛の展開の後半戦が始まります。麻美の妹、奈美はプロミュージシャンを目指す敏樹と結婚。しかし、麻美の夫である義兄への思いを断ち切ることができません。娘を失い、妻の行方もわからなくなり落ち込む義兄を慰めているうちに、その思いは一層高まります。
麻美の行方を捜すうちに、二転三転していく状況。そして、少しずつ明らかになっていく、麻美と肉体関係を持った男たちの死因。麻美の行方。一つの事実が明らかになるにつれ、出会ったことのない強い不快感が全身にまとわりつきます。
不快さもすごいですが、人間描写の細やかさに注目
寄生虫に関する描写も凄まじく、想像力が豊かな方は夢に出てきてしまいそうなので注意が必要です。そして、登場人物たちが、誰に、何に目線を向けて生きているのかという点が、物語全体を読み解く大事なポイントとなります。
まとめ
不快さマックスに包まれ、思わず身をよじるような描写を目にしながらも、ページをめくる手が止まらない、強力に惹きつけられる物語です。想像を超えた恐怖やおぞましさは、未知の領域にあるものを知りたいという気持ちを掻き立てるものなのかもしれません。
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