犯罪小説を読むことはある?
犯罪小説?あまりないかな。
ミステリーなら読むけど。
こちらはアメリカを舞台とした
犯罪小説よ。登場人物たちの
強い怒りと悲しみが漂う、ハードボイルドで
ありながらも繊細な物語なの。
アメリカ?陽気で大雑把な
イメージだけどそうでもないのかな。
『壊れた世界の者たちよ』
ドン・ウインズロウ(著) ハーパーBOOKS
あらすじ
ニューオーリンズ市警、ジミーが率いる麻薬犯は市警最強と言われている。ある麻薬組織からの報復により、ジミーの弟が惨殺されてしまう。復讐を誓うジミーは、敵のアジトを探り出す。表題作を始め、現代アメリカを鮮やかに切り取る6つの犯罪小説集。
ジミーの弟が麻薬組織に惨殺される
厚い胸板と広い肩幅を持つジミーは、ニューオーリンズ市警最強と呼ばれる麻薬犯を率いています。父親は引退したけれど伝説の警察官で、弟も警察官です。ジミーの麻薬犯は、個性豊かな3人のメンバーと共に行動しています。
ある麻薬組織の大きな取引に突入し、見事に成果をあげたジミーたち。麻薬組織の下っ端を逃し、親玉に挑発するようなメッセージを残します。逆上した麻薬組織のリーダーは、なんとジミーの弟を惨殺するのです。
強い怒りと悲しみに襲われたジミーは、弟の仇を打とうと立ち上がります。そしてチーム全員も協力するのです。まずは、弟を惨殺したものを探し出し、それからリーダーたちに攻撃をしかけていきます。
弟の復讐のために仲間とともに突き進む
悪を壊滅させようとする時にはアドレナリンが出て、興奮しながらも冷静に犯罪者を捕まえていたジミーですが、復讐行為については、興奮することなく、冷静さが欠けた状態で、ただひたすらに目標に向かって銃を持ちながら突き進んでいるように見えます。
壊れた世界の者たちの行動の果てには
麻薬組織か、警察か。報復か復讐か。立場も正義感も放り投げて、ただ相手の命を奪うことだけを頭に、動き回る男たち。
弟を殺されたことで自分の一部が壊れてしまったジミーの怒りが、彼を突き動かす原動力となっているようです。そんな彼についていくことを決めたメンバーたちも、同じような何かを心の中に持っていたのかもしれません。
作品に終始漂う「愚かさ」。そして圧倒的な強さを持ちながらも、大切な人の命は取り戻せない「無力さ」。そうしたどうにもならない心情が描かれています。
国境警備局の隊員・キャルが見つけた少女
また、国境警備局の隊員キャル・ストリックランドが、不法入国者の施設にいる少女を連れ出し、母親に会わせようとする「ラスト・ライド」も印象的な物語。
すぐ向こうはメキシコ、こちらのテキサスで実入りある仕事を手に入れるのは困難。そんな状況で国境警備局の隊員という仕事につき、まずまずの仕事ぶりを見せていたキャル。近くには姉が住む実家があり、カツカツの状態で牧場を営んでいます。
ある日キャルは、不法入国者が入った檻の中に、1人の少女を見つけます。その目つきが忘れられず、スタッフに問い合わせてみると、どうやら母親とはぐれたらしく、少女だけがアメリカに取り残され、このままではどこかの施設に行くことになるのだとか。キャルは少女を連れ出し、母親の元へ連れて行こうと決意します。
危険を犯しても少女を母親に会わせようとするキャル
国境付近の警備体制や、アメリカの不法入国者に対する対応、身元の引き受けなど、アメリカという国そのものの問題点がくっきりと浮かび上がってきます。正規のやり方では、少女の母親を探すこともできず、会わせてやることもできない。それどころか、どこかの施設にやられて一生母親と会えない可能性も…。
キャルはスタッフから情報を仕入れ、メキシコの友人などと取引をしながらなんとか母親に会わせることができたのですが…。
キャルの正義とアメリカという国家
カウボーイを彷彿とさせるような、力強く優しい男、キャル。個人の腕力は強いのですが、アメリカという巨大システムの前では、小さな少女1人を動かすこともできません。そこで、現代のカウボーイは同僚や古い友人たちの力を借りて、「絶対に母親に合わせてやる」という強い決心で望みます。
しかし、巨大国家の都合に振り回されることになってしまうのです。アメリカという国自体も、国のシステムの甘さを露見させないために、1人の強い正義感を持った人間をいとも簡単にひねり潰そうとします。アメリカって自由じゃなかったのか!?正義って何!?と叫びたくなります。
まとめ
どの作品も、壮大な1本の映画を見るような、深い余韻を残します。社会と個人、正義と悪、強者と弱者。常に比較対象が描かれているのは、そうした差が強いところにこそ、犯罪が多く発生するからなのかもしれません。
ただし、犯罪を起こす者も、捕まえるものも、命を奪う者も守る者も、全てそれまで生きてきた人生と家族を持つ者なのです。そんな彼らが犯罪に向かうにも、己の中では筋が通っていたりするのです。
正義の尺度は、立場によって、それまで生きてきた人生によって異なります。あなたにとっての正義とは何なのか。そんなことを問われるような物語です。
ユーモアのある作品もあるけれど
胸の奥に刺さるような物語が
多いな。
これまでの作品に登場していた人物たちも
出てくるのですって。登場人物たちの時の
経過も楽しめる作品なの。
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