血の繋がった関係ではないけれど、縁があって家族となった人たち。新たな家族を迎えて、喜ばしい部分もあれば、新しい家族ゆえに感じる問題や複雑な感情もあります。そうしたことに向き合い、ひとつひとつ解決していくことで、家族の絆が一層深まっていくのです。ぶつかったり、くっついたり離れたりしながら築き上げていく家族の形に胸が暖かくなる物語たちです。
新しい家族を築くことで、これまでの自分を振り返る
『キラキラ共和国』 小川 糸 (著) ¥660 幻冬舎文庫
鎌倉で祖母から受け継いだ文具店と大所業を営むポッポちゃん。文通仲間になった五歳のQPちゃんと家族になりました。愛しい気持ちが溢れてくる小学生になったQPちゃんと父親のミツローさんとの暮らし。しかし亡くなった前妻のことがどうしても気になって…。亡き夫からの詫び状、大物文豪家からのラブレター、大切な人への遺言など、ポッポちゃんは依頼を受ける代書から自分と自分たちの家族のあり方について考えていきます。いろんな人とのつながりを経て今の出会いと家族がある。だからその人たちが生きてきた過去や繋がる人たちも大切にしたい。そんなポッポちゃんの大きな愛情が温かく家族を包んでいく物語です。ツバキ文具シリーズの第二弾。
思春期の子どもの気持ちが手に取るようにわかる
『ポニーテール』 重松 清 著 ¥630+税 新潮文庫
小学四年生のフミと六年生のマキは、互いの親の再婚で姉妹になりました。お姉ちゃんと仲良くなりたいフミですが、マキの素っ気ない態度に泣いてしまうことも。マキも新しい家族に戸惑い父や母もそれぞれに思いを抱え、娘たちに心を配ります。今までの家族の思い出との違い、新しい家族に対する嬉しさや恥ずかしさなど言葉にできなような少女たちの気持ち、口に出せない両親の思いが丁寧に描かれ、「思春期の自分の気持ちを言葉にしてもらうとこんな風だったのか!と納得と感動の波がザバァっと押し寄せてきます。なんだかムズムズしていたあの頃を思い出してみたいあなた、うちの子思春期で何考えてんのかよく分からんと思った親御さんにもぜひ手に取ってみてもらいたい物語です。
人見知りの作家と素直な女子高生の同居譚
『異国日記』 ヤマシタトモコ (著) ¥734 祥伝社
少女小説家の槙生は、交通事故で亡くなった姉夫婦の娘、つまり姪の朝と二人で暮らすことになりました。コミュ障で掃除が苦手な槙生と、天真爛漫で綺麗好きな朝。全く性格の異なる二人が、互いを探り合ったり、ぶつかったりしながら二人で暮らす生活をひとつずつ重ねていきます。異なる価値観がぶつかり合うことで新たな着想を得ていく槙生。人と積極的に関わることが苦手な彼女ですが、朝のカサブタのようになった心の傷を無理に剥がそうとはせず、踏み込むことも慰めもせずにそっと寄り添います。別の人間であるからあなたの痛みは分からない。はっきりとそう告げる槙生に反発を覚える朝ですが、分からなからこそ想像し、尊重するのだということを暗に教えてくれてもいるのだということを理解します。「孤独」をテーマに胸に刺さる言葉がいくつも飛び交う一方、二人の枠が少しずつ緩んで距離が近づいていくことに嬉しさを感じるコミックです。
まるで物語のような、感動的で心あたたまるエッセイ
『ファミリー・デイズ』 瀬尾 まいこ (著) ¥594 集英社文庫
2019年に本屋大賞を受賞した瀬尾まいこさんによる初めてのエッセイ。一生独身のまま中学教師を続けていくのだろうなあと思っていた30代後半に結婚、妊娠、出産。のんびりとした夫婦生活、教師時代の思い出や恩師との交流、生まれた娘の活発な動きと成長ぶり。瀬尾さんらしく、のんびりと大らかで、それでいて時折クスッと笑わせてくれます。そして油断しているところに涙が溢れるような感動のエピソードが挟まれていて、エッセイでありながら短編集を読んでいるようなお得感のある一冊になっています。親になってからは娘に集中し、自身が自覚するように視野が狭くなった部分もあるようですが、それでもやっぱり一歩下がって自分の育児する様子を、冷静かつ客観的に眺めている瀬尾さんだからこそ、家族への慈しみをもって描かれた情景は、読む者の胸に火を灯してくれるような、やわらかなあたたかさを感じさせてくれるのです。
「幸せ」の概念は人の数だけ存在する
『神さまのビオトープ』 凪良 ゆう (著) ¥792 講談社タイガ
結婚して2年目に夫の鹿野くんを交通事故で亡くしたうる波。でも鹿野くんは幽霊になって私と二人で暮らしている。そんな二人(一人は幽霊)のもとに、様々なトラブルが起こります。これは幽霊になった夫と再び夫婦となるちょっと変わった家族のお話です。うる波から、鹿野くんの姿は見えるし会話もできます。触れることはできません。そんな状態ですが、うる派は鹿野君と夫婦でい続けることを選んだのです。一度失ってしまった相手とまた関係をやり直せる喜びと、実体に触れることはできない悲しみといつか見えなくなってしまうのではないかという不安、周囲には理解してもらえないという諦め。複雑な思いと葛藤を抱えながら、自分だけの「幸せ」のあり方を見つけていくうる波の姿は、悲しいけど幸せ、さみしいけれどこれでいい、という多様性のある幸せの形を教えてくれます。
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まとめ
家族というものは、一人一人考えを持つ個人同士の集まりの単位、とも言えます。甘えたり、拗ねたり、突き放したり、守ったり、守られたりするのは、血が繋がっていても難しく感じる時があるものです。それでも存在するというだけで力になったりするのも、また家族という存在であるのです。時間をかけてそんな絆を作っていく家族の話を読んで、自分と家族の関係はどうだったかな、今はどうかなと振り返ってみるのも良いかもしれませんね。
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