こちらは元新聞記者のライターが
父に頼まれて個人的にある女性を
調べていくお話よ。当該人物は
祖母、母と三代にわたり
壮絶な人生を送っているの。
ほほう。人物調査か。
元新聞記者ってことはネットの
こたつ記事なんかとは違って
きっちり裏を取りながら
たどっていくのかな。
そうなるわね。調査する辻珠緒という
女性はゲーム会社に勤めていた
仕事のできる優秀な人物。今現在
行方がわからなくなっていて、彼女の
地元で話を聞くといろんな事実が
明らかになっていくの。
ほほう。謎多き優秀な女性、
ってことだな。彼女はどんな
人生を送ってきたのか?
現在はどうしているんだろう。
気になるぜ。
『朱色の化身』塩田武士 (著) 講談社文庫
あらすじ
昭和三十一年四月二十二日。
福井県の北端、芦原温泉街で大規模な火災が発生し、三百棟以上の家屋が消失した。
六十年後、元新聞記者でライターの大路亨は、父に頼まれ失踪した女性・辻珠緒を探すため、彼女の関係者に取材をしていた。
数々の真実が明らかになるにつれ、やがて芦原出身である彼女と大火災に関わりがあることに気づく。
社会や身内に翻弄された、彼女の人生とは。
行方不明の女性が生きてきた壮絶な人生とは
亨と同じく元新聞記者だった父のもとをたずねると、父の母、つまり亨のお祖母ちゃんのことで話がある、と父から言われます。
祖母は六十年以上前に「辻静代」という人物について、興信所を使って調べていたのだとか。
祖父はすでに亡くなっており、父が二歳の頃のこと。
そして亨が手がけたある会社紹介の記事を取り出し、取材対象の辻珠緒という女性が報告書に記載されている辻静代の孫ではないかと言います。
そして父は珠緒を探し出し、祖母とどんな関わりがあったのかを調べてほしいと。
亨は珠緒が勤めていたゲーム会社、ゲーム依存から抜け出せずにいた親友の息子、大学時代の友人、大学卒業後に努めた銀行の同期、数年で結婚生活が破綻したという元夫など、彼女と一時期でも関わったことがある人々に取材を重ね、話を聞きます。
優秀ながら苦労が多い人生を送ってきた珠緒。
しかし亨には、どうも彼女の表面的なものしか見えず、内面がわからない、と感じます。
また誰もが彼女の行方を知らないということを奇妙に思っていたところ、ある男から一本の電話を受けます。
その相手は珠緒の弟にあたる、珠緒の母の再婚相手の息子、谷口慎平でした。
彼の口から語られた衝撃の出来事とは。
まとめ
六十年前に起こった温泉街の大火災は多くの人々の幸せや希望を奪っていきました。
そこから始まった母娘三代の悲劇の連鎖を描いた物語です。
失踪中の珠緒は優秀な成績で大学を出て、大手銀行に入行。
京都老舗和菓子店の後継ぎと結婚、といたって順風満帆な人生を送っているように見えるのですが、一方アルコールに依存したり、友人の父親と不倫の疑惑があったりと不安定な一面も垣間見えます。
女性ということで勉強や仕事を制限された社会背景、男を頼るしか方法がなかったゆえの母の悲劇。
彼女たちの不幸は時代が違えば自分達にふりかかったものかもしれません。
どうすれば良かったのか、と考えるにはあまりにも追いつめられた、それでもその状況で必死に生きてきた彼女たちのその姿に胸を打たれる物語です。
<こんな人におすすめ>
行方不明の女性と三十年前の大火災との関係を描いた社会派ミステリーに興味がある
丹念な取材によりある人物像を具体的な輪郭を持って浮かび上がらせていく話を読んでみたい
塩田武士のファン
苦しい… こんな苦しい思いを
しながらただ生きようとして
いたんだよな。
優秀なのに報われなかったり
周囲の人々が苦しんでいる姿を
見ながら生きてきた彼女。
その人生は、多くのものを背負い
それでも顔をあげて生きていくのね。
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