『羊は安らかに草を食み』宇佐美まこと (著) 祥伝社文庫
こちらは友達関係ある3人の老女が
認知症になった1人を連れて
彼女が生きてきた人生を辿る
旅に出るお話よ。
老女3人の旅かあ。しかも
1人は認知症?大変な道のりに
なりそうだな。
認知症の女性、益恵は少女の頃
満州で終戦を迎え壮絶な子供時代を
過ごしたの。その後結婚するも
幼い子供を亡くしてしまうわ。
今は五十代で一緒になった旦那さんに
介護してもらいながら暮らしているの。
ざっと聞いただけでも波乱万丈な
人生だったことがわかるなあ。
一緒にまわっている友達たちも
いろいろ感じるところが
あるんじゃないいだろうか。
あらすじ
俳句教室で知り合った八十歳のアイ、七十七歳の富士子、八十六歳の益恵の三人は互いをアイちゃん、富士ちゃん、まあさんと呼び合う仲の良い友人。
明るく朗らかでリーダーシップのあった益恵が認知症になり、アイと富士子は益恵の夫からあるお願いをされる。
それは益恵を連れて彼女の住んでいた土地を旅してほしい、というものだった。三人は益恵の人生をたどる旅に出る。
認知症のまあさんの人生をたどる旅
益恵は若い頃、生後数ヶ月の娘を亡くし、前夫が病で亡くなるまで夫婦二人暮らし、現夫の三千男と五十代で一緒になったようです。
認知症の症状が出てきた益恵をかいがいしく世話していた三千男ですが自身も足が不自由なため、介護に限界を感じ、益恵に施設に入ってもらうことを決めました。
その前に、アイと富士子にかつて益恵が住んだことのある滋賀県大津市、愛媛県松山市、國先島へ、益恵を連れて旅にいってほしいのだと三千男は言います。
自身の過去をあまり詳しく話そうとしない益恵が心の中に抱える思いしこりのようなものがこの旅で取れる、過去と折り合いをつけることができるのではないか。
そんな三千男の思いを聞き、アイと富士子は快諾します。
他の二人よりも健脚でごはんも良く食べて甘いものが好き。
お気に入りの宝塚女優の話を聞くと嬉しそうな姿を見せる。
そんな益恵が送ってきた人生、そしてその彼女を作り上げた、満州での壮絶な日々が次々と明らかになっていきます。
アイと富士子もまた問題を抱えており、益恵の知られざる一面を知るにつれ、自分の内側を改めて見つめ直し…。
まとめ
益恵が俳句に描いてきた風景は雄大で美しかったり、あたたかなものを感じさせます。
第三者から見た、そうした景色が益恵のどの実体験に基づくものかが明らかになると、その壮絶さに息を呑みます。
満州からの引き揚げ時に家族を喪い、見捨て、十歳の少女はたった一人で生きるために歩き出します。
やがて仲間を得て、何とか1日を生き延び知恵を絞り、命を落としそうになりながら日本に帰るために友と手を取り合い涙を流します。
ようやく日本に戻ることのできた益恵ですが、そこにはまた別の苦しみが待ち受けていたのです。
命とは、日本人とは。
極限の状態で生きてきた益恵が守り抜いたものに衝撃と感動で胸が熱くなる物語です。
<こんな人におすすめ>
認知症になった友人の過去をたどる旅に繰り出す三人の老女の物語に興味がある
少女時代だった戦時中、満州から日本に帰るまで過酷な体験をした女性の話を読んでみたい
宇佐美まことのファン
こんな大変な状況を…
よく生き抜いてきた!!
食べること、生きていること
全てが有難いことなんだな。
極限の状態を過ごし、命や
日本人としての価値観を
何度も揺さぶられるような体験を
重ねてきた益江が、幸せと感じる
ことは何なのか。考えさせられる
物語ね。
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