その危機は静かに口を開けて彼らを待っている

『彼女の知らない空』   早瀬 耕 (著)  小学館文庫

あらすじ

憲法第九条が変更され、自衛隊に交戦権が与えられた。空自佐として千歳基地へ配属し、妻の智恵子と官舎でで二人暮らしをしているぼくは、妻の知らない空で戦争をしている(「彼女の知らない空」)。表題作のほか、過重労働に苦しむ男と老人の出会い、自分の研究が軍事転用されることへのジレンマなど、逃れられない局面に立たされた人々を描く短編集。

逃れられない状況のなかで思い浮かぶ妻の声

仕事から戻るといつもあたたかく「おかえり」と言ってくれる妻。ぼくが人を殺しても同じように「おかえり」と言ってくれるのだろうか。空自佐のぼくはQ国反政府組織に向けて、無人軍用機を飛ばし、遠隔操作を行う。標的リストのメンバーを発見し、攻撃の許可を得たぼくは…。頭によぎる妻の顔、「おかえり」という声。全てが遠ざかっていく絶望感に包まれます。ほかにも、逃げることのできない状況で訪れる危機にさらされる人々を描いた七つの短編集です。

まとめ

こうした出来事に出会った登場人物たちは出会う前の状態には戻れないと感じているのではないでしょうか。ピンチは人を強くさせるけれど、立ち上がれない程のダメージはどうしたらいいのか。美しい情景と、人間のあがきを丁寧に描いた物語。

<こんな人におすすめ>

仕事と、社会と戦う人々を描く物語に興味がある
悲しみと苦しみの中でも一筋光るものが見えるような話を読みたい
早瀬 耕のファン

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