こちらは結婚して10年になる
子供のいない夫婦のお話。
夫がある日から風呂に入らなく
なってしまうの。
えっ どうした?
精神的なものなのか?
妻の方にはなんとなく心当たりが
あるみたいなの。とはいえ病院に
連れて行ったりなどはしないわ。
会社員だったら長いこと
お風呂は入らなかったら
周りの人にも迷惑だよなあ。
この夫婦、どうなっちゃうんだろう?
『水たまりで息をする』高瀬 隼子 (著)集英社文庫
あらすじ
結婚して10年になる衣津美は共働きで夫と二人暮らし。
子供はいないが、このまま穏やかに暮らす日々が続いていくと思っていた。
ところがある日、夫が「風呂には、入らないことにした」と発言し、シャワーはおろかミネラルウォーターで体を洗うことすら嫌がるように。
やがて衣津美は夫との間にある隔たりに気づく。
夫が風呂に入らない
今年三十五歳になる衣津美の一つ年下の夫がひょっとして数日風呂に入っていないのでは、と思い当たった衣津美がそのことを問うと、「風呂には、入らないことにした」との答えが。
数日前の夜、夫は会社の飲み会で後輩に頭から水をかけられました。
どうやらその日から風呂に入っていないようです。
どうして入らないのか、と何となくたずねられないまま日々を過ごします。
水はカルキ臭く、痛みやかゆみを感じるのだとか。
やがて雨の日には傘をささずに全身を濡らすように。
雨の匂いをさせる夫に、衣津美は小学生の頃、台風が去った後の光景を思い出します。
台風の後、川の近くにはあちこちで大きな水たまりができていて、そこに魚がいることがありました。
見つけると川へと投げ入れていた衣津美ですが、ある時ふと思いたち見つけた魚をバケツに入れて持ち帰ります。
大した世話はしていないのに魚は長いこと生き続け、彼女は台風ちゃんと名付けたのでした。
夫の匂いは勤務先でも問題になっているらしく、なぜか衣津美ではなく義母のところへ連絡が入ったようで、義母から何故夫を病院に連れて行かないかのか、と言われます。
衣津美は自然豊かな自分の実家へ連れて行った時に彼の反応が良かったため、かつて祖母が住んでいた家を買い取り、そこで二人で暮らすことにしたのですが…。
まとめ
やがて干上がってしまう水たまりの中で呼吸しているような息苦しさを感じている衣津美の夫。
水道水は自分を攻撃してくるもののように思えたのかもしれません。
衣津美はそんな夫に寄り添い、最善の方法を探りますが衣津美自身も水槽の外側から夫を眺めているような、そんな隔たりも感じます。
誰もが息をできる場所を求めているのではないか。
そんな風に思える物語です。
<こんな人におすすめ>
夫が風呂に入らなくなった夫婦を描いた話を読んでみたい
夫婦の繋がりや隔てるものを描く物語に興味がある
高瀬 隼子のファン
ううん… 人の生き方に正解なんて
ないけども。衣津美にはもっと
夫に対してどうにかできなかったのか
と問いたくもなるが、二人にとっては
れで良かったのかも。結末を読むと
まだ他の方法があったんじゃとまた
考えちゃうんだよな。
自分にとって息ができる場所を
探すことが難しいと考えている人は
案外たくさんいるものなのかも
しれないわね。
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