
こちらは置き引きやダイエットなど
何かに依存しなければ生きていけない
人々の葛藤やそこから見出す希望を
描いた六つの短編集よ。

依存かあ。本人も何とかしなきゃと
思いながらもなかなか抜け出せくて
苦しんだりするんだろうなあ。

そうね。自分を取り巻く環境や
価値観などもあって本人は
苦しんだりしているの。でも
ちょっとしたきっかけでかすかな
希望の光が見えてくるのよ。

そうかあ。依存に苦しむことのない
自由な生き方を手に入れられると
いいなあ。
『燃える息』パリュス あや子 (著) 講談社文庫
あらすじ
「ここだよ」と無造作に置かれるバッグや財布から呼ばれると抗えず、自分の手の中に納めてしまう。
置き引きがやめられない私がある日手にしたものとは(「呼ぶ骨」)。
結婚式を控え、始めたダイエットにはまり、運動とプロテイン摂取をひたすら続けていたら…(「ジューンブライドバナナパフェ」)。
何かに依存せずには生きていけない人生の苦しみや葛藤、そして一握りの希望を描く六編を収録した短編集。
呼ばれたら、抗えない
展覧会帰りに立ち寄った公園でベンチの近くに無造作に置かれた小型のショルダーバッグ。
休憩に入ったカフェで携帯を持ち席を離れた女性が置いていったくったりと形を崩したトートバッグ。
「ここだよ」「イケるよ」とバッグや財布から声が聞こえる真白は、気がつけばそれらを手に取る置き引きがやめられません。
盗る瞬間は緊張と興奮に包まれて達成時には万能感すら覚えるものの、手にするとその物は死んでいて後悔と罪悪感に苛まれるという繰り返しです。
ある日、電車で「呼ばれた」包みを手にした真白は開けたとたん驚きます。それは何と遺骨だったのです。
翌日大学のゼミ室に入ると重い空気が漂っています。
何でも昨夜の飲み会でマシロが先に帰った後、一人の女の子の財布がなくなったのだとか。
一瞬呼吸が止まり、私じゃない。
私がやったんじゃないと頭の中で呟く真白ですが…(「呼ぶ骨」)。
大学時代から付き合い始めて七年になる同じ年の恭平との結婚式を控え、一緒にドレスショップへとやってきた芙美香。
着たいドレスが入らず一年後の式までに痩せる決意をします。
ジムに通い、運動をしてプロテインを摂る。
半年で二十キロ落ちたというトレーナーの言葉にのぞみをかけてダイエットに取り組み始めた芙美香。
一ヵ月でみるみる結果が出はじめて、何故もっと早く始めなかったのかと感じるほどです。
運動して、プロテインを摂って自分の筋肉となり強く美しい身体を作り上げている。
そう考えるとどんな時でも運動を止めることができなくなり…(「ジューン・ブライドバナナパフェ」)。
まとめ
置き引き、ダイエット、スマホなど良くないとわかっていても止めることのできない衝動に突き動かされてしまう人々。
それはほんの些細なきっかけで始まり完全に脱することは難しいのかもしれません。
しかし登場人物たちは様々な形でこうした依存を柔らかなものに変えて上手に付き合う術を見つけたようです。
依存にとらわれてしまう人間の悲しい性を描きつつ、足掻き良くなりと思う人間の希望と愛しさを感じさせてくれる物語です。
<こんな人におすすめ>
依存に苦しみ葛藤する人々を描いた物語を読んでみたい
明日は我が身かもしれないと感じる話に興味がある
パリュス あや子のファン


本人たちも必死なんだよな。
最後にその後の登場人物たちが
現れる一編に心が救われる
思いがするぜ。

苦しみながらも「どうにかしたい」と
考え続けることで道筋が見えてくる
ものなのかもしれないわね。
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