
こちらは遊女屋の娘として生まれた
ゆうを描いた『恋紅』の続編よ。
家を出たゆうは旅役者の福之助に
伴って各地を巡業するの。

ほほう。旅役者の一座を
支える役割なのかな。
旅一座もいろいろと浮き沈みが
あって大変そうだが。

そうね。いつも運営はギリギリ。
お金を騙し取られたり福之助が
病になったりと次々と試練が
襲いかかるの。

甘ったれのお嬢さん気質が
どこか抜けなかったゆうだが
この試練を乗り越えることが
できるんだろうか。
『散りしきる花』皆川博子 (著) 春陽文庫
あらすじ
吉原の遊女屋の娘として生まれたゆうが、家を出て旅役者の福之助に付き従い各地を巡るようになってから九年の時が過ぎた。
頭取として一座をまとめ細々とした仕事をこなしていたゆう。
しかしある日、一座の女形が失踪したことをきっかけに次々と大きな試練がゆうに襲いかかる。
試練が続く一座を支えるゆうだが
遊女屋の一人娘として不自由なく育ちながらも、女郎たちのおかげで得られるその豊かさに引け目を感じていたゆうが、誰でも受け入れる懐の深さとその演技に惹かれ旅役者の福之助と一緒になり、一座と共に各地を巡業します。
頭取として限られた予算で役者たちに食べさせ、また唯一の女手でもあるため衣装をつくろったり役者たちの身の回りの細々とした仕事もこなしていました。
忙しく、決して順風満帆とは言えない日々ですが、惚れた福之助のそばにいて助けになれることに喜びを感じていたゆう。
しかし、ある時一座の女形である牡丹が失踪。
探し当て迎えに行く福之助とゆうですが、愛国的政治結社に身を投じた牡丹は役者に戻る意思はないようでした。
女形を失い華も勢いも客足も減っていく一座。
そんな中で福之助を病が襲います。
咳と高熱が続き、宿代に加え診察代に薬代とかさんでいく費用に福之助は「座を解こう」と提案。
一座を、そして何より福之助を慕ってついてきた役者たちは反発しますが、最終的には納得し、それぞれの道を歩き出します。
福之助と長屋に移り、薬屋の下女として働き出したゆう。
少しずつ回復の兆しも見られ始めていたある日、ゆうの働く店に人々が押しかけ打ちこわしの騒ぎに。
店を必死に守り一晩過ぎた頃、ゆうを呼ぶ声に顔を出すと、長屋の住人が一言「死んどるで」と…。
まとめ
一座の頭取として現地での交渉なども行なってはいたものの、最終的には福之助の力を頼ったりとどこか守られているお嬢様気質が抜けなかったゆう。
一座の金を騙し取られ、福之助の心の拠り所である一座は解散。
最愛の人を失い、望まぬ子供の妊娠、出産と我が子への思いにゆうは自分でも戸惑います。
試練の荒波に呑み込まれ時に自分を見失いながらも、一つずつ乗り越え気がつけば立派な女興行師となっていたのです。
一人の男を愛し、芝居の世界を愛し続けた一人の女の人生を、激しく変わりゆく時代を背景に丁寧に描く、読後に深い余韻を残す物語です。
<こんな人におすすめ>
旅役者の夫を支えながら激動の人生を歩む女性の姿を描いた物語を読んでみたい
前作『恋紅』を読んだ
皆川博子のファン

前作『恋紅』のイラストブックレビューはこちらからご覧いただけます。

よくここまで生き抜いた…。
女であるがゆえに女であるからこそ
喜びと苦しみを糧にして
今日という日を迎えたんだな。

役者である夫と、彼を輝かせる
芝居の世界を愛し抜いた一人の女性の
激動の人生を描く感動の物語ね。
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