
こちらは『三島屋変調百物語』
第九弾よ。出産を控えたおちかを
案じて百物語をいっとき控えていた
富治郎のもとに「うりんぼ様」と
呼ばれる仏様を連れた女性が
やってくるの。

おちか、無事にお産ができるといいな。
そんな大変なときにやってきた
「うりんぼ様」って何なんだ?

うりんぼ様を連れてきた女性も
ただ導かれて三島屋へ来たらしいの。
そして富次郎にも汗をかいてもらうことに
なる、という謎の言葉を残すのよ。

うりんぼ様?富次郎が
何らかの働きをすることになる?
いったいどんなことになるのやら。
『青瓜不動 三島屋変調百物語九之続』宮部 みゆき (著) 角川文庫
あらすじ
神田三島町に店を構える袋物屋の三島屋の次男坊・富次郎が聞き手を務める百物語は「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」というきまりごとがある。
初代の聞き手であるおちかの出産を控え、いっとき百物語も休みをとっていたが、仏様を背おい、土の匂いをさせた一人の女がやってきた。
この女の口から語られたのは「うりんぼ様」と呼ばれる仏様と行き場のない女たちの話だった。
行き場を失った女たちとうりんぼ様
土の匂いをさせた女はいねと名乗り、背中の仏像をおろすと「うりんぼ様、さあ着きましたよ」と語りかけます。
事情をたずねる富次郎に、うりんぼ様がこちらの産婦さんに力添えしてくださること、またうりんぼが腰を上げるまで、いつもどこへ運べばいいのかわからないことを伝えます。
顔に猪の子の身体にあるような縦縞があることから「うりんぼ様」と呼ばれるこの仏様は、おちかと縁がある行然坊の願いを聞き届けにやってきたのだとか。
ただ、若旦那さんにもうんと汗をかいてもらうことになる、といういねの言葉に目をぱちくりする富次郎。
そしていねは自分が住んでいる「洞泉庵」という庵について、そしてうりんぼ様について話しはじめます。
それは行き場を失った女たちの悲しみや苦しみ、その中に差す一筋の希望についての話でした。
話を終えたいねが、うりんぼ様を置いて帰ると三島屋におちかが産気づいたとの知らせが入ります。
右往左往する父や兄を目に、うりんぼ様と共におちかの無事な出産を願おうと黒白の間に入った富次郎。
するとうりんぼ様がこちらを向き「参るぞ」と呼びかけた途端、真っ暗闇の中へ落ち、目が覚めれば丘一面に実る青瓜…いやよく見ればそこに顔がついているうりんぼなのでした。
摘んでほしそうにしているうりんぼたちを取り、どんどん背中のカゴへと入れていく富次郎。
そこへ巨大な化け物、大百足が現れ富次郎たちに襲いかかり…。
まとめ
跡取りを生むことができず離縁された女性は、身のおきどころがなく肩身の狭い思いをしながら暮らすしかなかった時代。
また理不尽な仕打ちを受けることもしばしばで、黙ってその状況を受け入れるしかなかったのです。
そんな扱いに納得がいかないと立ち上がり、不毛の地に手を入れ行き場をなくした女性のための受け入れ場所を作った女性と、業を持つ女性が引き寄せる邪悪なものから引き離す助けをしてくれる「うりんぼ様」の、感動と生きる勇気をもらえる物語です。
<こんな人におすすめ>
行き場のなくなった女たちの苦しみと一筋の光を描き出す物語を読んでみたい
『三島屋変調百物語九之続』シリーズのファン
宮部 みゆきのファン


人の悪意に折れることなく
同じように苦しむ女性たちを
うりんぼさまは支えて
きたんだなあ。

自分たちで生きる場を作ろうと
懸命に努力を続ける女性たち
だからこそ、うりんぼさまも
手助けしてくれるのかもしれないわね。
『三島屋変調百物語九之続』シリーズのイラストブックレビューはこちらからご覧いただけます。
本やイラストレビューが気に入っていただけたらポチッとお願いします。