
こちらは民俗学者である著者が
現在の岩手県遠野市周辺にあたる
遠野郷に伝わる逸話や伝承を
綴る物語よ。

伝承かあ。山深い場所なのか?
妖の話なんかもありそう。

そうね。山男や山女、そして
座敷わらしや河童の話も
登場するわ。

人ではどうにもならない
自然の力を畏れている部分が
そうした伝承として伝わって
いるんだろうか。
『遠野物語』柳田国男 (著) 新潮文庫
あらすじ
現在の岩手県遠野市周辺にあたる遠野郷。
この地域に伝わる民間信仰や異聞怪談に魅せられた著者が現地を訪れ地元の住民が語る話をまとめあげていく。
語り手と聞き手が溶け合っていく民族学の名著にして郷愁を呼び起こす、唯一の物語。
山で出会う人ならざるもの
岩手県上閉伊土淵村で生まれ山口村で育った佐々木喜善が語る伝承に興味を示した柳田氏は、彼を自宅に招き、その話を記録としてまとめます。
笹を刈りに山へ入った吉兵衛という男が、奥の林から幼い子供を背負った若い女がこちらへ向かってくるのを見つけます。
足が地についていると思えない様子で男の前を通り過ぎてどこかへと行きました。
男は恐怖のあまり病んでしまい、ついには亡くなったのだとか。
この「山女」の話は少しずつバリエーションは異なりながらも遠野郷の各地で伝えられています。
また川童の子を産んだという話も。
そして遠野の川童の顔は赤いのだとか。
他にも山の神や天宮、雪女やザシキワラシ、オシラサマなど人々が信仰する神や異聞怪談が綴られています。
小さな盆地である場所で、実に様々なその土地で語り継がれてきた神や物の怪たちの存在に圧倒され、恐怖を感じつつどこか懐かしさを覚えることも。
まとめ
山の奥深くや川のそばに現れる山男、山女や川童の類は、踏み入れすぎてはならないという警告を含んでおり、またここで物の怪に遭遇して病んでしまったりした者たちの存在は、こうした自然に対する人々の畏れが感じられます。
暮らしに密接した豊かな緑や川の流れは力強く抱擁力のある存在ではありますが、何かのきっかけや条件によって人々に鋭い牙をむくこともあります。
小さな人間の力ではどうすることもできない、自然の偉大で未知な力がこうした信仰や怪談の形で残されていったのかもしれません。
光が増え、闇が少なくなってきた現代だからこそ心の奥深くに未知なる領域として残しておきたい。
そんな風に感じる物語です。
<こんな人におすすめ>
地域に根付いた信仰や異聞怪談に興味がある
自然に対する敬意や畏れを感じる話を読んでみたい
民族洞察の名著と呼ばれる一冊に挑戦したい


怖い話もあるけれどどこか
懐かしさを感じるものもあるな。
自然と人とが適度な距離感を
持って接するためのバイブルでも
あったのかもしれないなあ。

地域の人々の自然に対する意識や
物事の価値観という観点からも
興味深い一冊ね。
本やイラストレビューが気に入っていただけたらポチッとお願いします。