
こちらは工場で働く人々の日常や
夢想が混ざり合っていく物語よ。

工場かあ。何を作っているんだ?

敷地は広大で住居や住まいまでも
あるの。割り当てられた仕事を
人々はたんたんとこなしているけれど
その全体像をつかめないままなのよ。

この仕事は何なのかよくわからないで
働いているのか?疑問を持ったり
不安を感じたりしないんだろうか。
『工場』小山田 浩子 (著) 新潮文庫
あらすじ
兄が持ってきた求人票、「工場で正社員募集若干名。大卒以上」に応募した牛山佳子は契約社員として採用された印刷課分室で働くことに。
敷地内に住居や店までも存在する巨大な工場での仕事は何の目的があるのかわからない。
日常の作業と夢想が混ざり合う表題作と他二篇を収めた物語。
何のためかわからない仕事
大学を出てから五回会社を辞めている佳子は六つ目の職場になるかもしれない、街の大きな工場へ面接にやってきました。
大河を南北で隔てる工場は小学校の頃に社会科見学で訪れたこともあり、地元の人間であれば何かしら工場の仕事に関わっているのではというくらい大きな存在でした。
経歴のせいか契約社員として採用された佳子の仕事は1日中シュレッダーをかけること。
また分類学の研究生だった古笛は教授の紹介で工場に就職し、工場緑化をコケで行う計画があり、まずは敷地内のコケの採集と分類を行ってほしい、と工場側から言われます。
部署の人間も、この仕事を担当するのも古笛一人。
期限もないフワッとした内容に首をかしげる古笛ですが。
また佳子の兄は派遣会社の正社員である彼女の紹介で、工場内で校正する仕事に就きました。
積んである封筒から一つ抜いてその中身をチェックして赤を入れていくというもの。
原稿の内容も一度修正した後にさらに激しく間違ったものが来たりして、この仕事がどのように反映されているのかよくわかりません。
もっと自分に合った仕事はないものかと思いつつ赤を入れていきます。
まとめ
大きな敷地内で、何やらわからない作業があちこち行われていて、工場特有のものかもしれない生物までもが登場します。
仕事の目的や意味を知ろうにも、同僚の人々も知らなかったり興味を持っていなかったりする状況です。
他人とうまくコミュニケーションを取れない佳子は、そんな環境で黙々とシュレッダーをかけ、突然得ることになった半休を使って工場の広い敷地を、いつもと違う場所へと向かっていきます。
全体が見渡せないほどの広大な場所の一部分で、どのように作用するかわからない作業を続けている彼らは、人間という身体の中で動き続ける細胞のようにも感じます。
どこにでもあるような、それでいてこの一部分に組み込まれることに恐ろしさを感じるような工場での仕事と働く人々を描く、どこかざわざわとした感覚が残る物語です。
<こんな人におすすめ>
工場で働く人々やその仕事内容に疑問を持つような物語に興味がある
職場の出来事と非現実的な夢想が混ざり合うような感覚を覚える話を読んでみたい
小山田 浩子のファン


何だか自分も工場の一部に
なったような気分になるな…。
考えることって大切だよな。

工場の周辺に登場する
生き物たちの描写もまた
その世界だけで成立していて
世の中から孤立しているような
感覚にもなる物語ね。
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